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第84話
「っ、あんたのとこでは普通かもしれないけど、俺の国では違う!」
「ここは日本じゃないから。キスはこの国でも一般的な挨拶だよ」
「人の手の甲にキスするのがっ?」
「もちろん」
「男にもっ?」
立て続けに聞く途中、王子の言葉が止まった。
ちょっとしてやったりと思ったけど、途端今日イチの綺麗な微笑みを見せた
「男にはしない。あなただからした」
「っ、はぁ……?」
他に言葉も出なくて、無理やりひねり出したみたいに声が裏返る。王子は全然動じてない。
「気に入ったんだ。あなたのことをもっと知りたいな」
ただニコニコとして、無邪気過ぎてハイソウデスカって返したくなるほど。
「もっと知りたいって」
なんだかいい予感はしない。
「俺、あんたと親しくなろうなってこれっぽっちも思ってないですけど」
ちょっと腰が引けるけど、そこはハッタリかますくらいの心持ちでなんとか押し切る。
「大体、俺、結婚してんの知ってんのに、今みたいに簡単に触ったりキスしてきたりする奴のことは信用できない。挨拶だかなんだ知らないけど、初対面の奴にそんな挨拶されたことないし」
握手とか軽いハグとかならあるけど。そうだよ、いきなりキスなんかしてきた奴なんかいなかったじゃん!自分で言ってからその事実に気づく。
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