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第88話

そこで本当にいやらしい顔でもしてたら、身分とか場所とか関係なく一発ぶん殴ってやろうと思ったけど、それどころか本当に悪気がない顔をしていたから、軽く握っていた拳の力を抜いてしまった。 「女の子でもあんな顔をする人はいないよ。とても美しかった」 褒められてんだかなんなんだかわかんない。 「つうか何見てんだよ。勝手に部屋に入ってきてたってことかよ」 苦し紛れに言うけど「だって、部屋の扉が少し空いてたんだもん」なんて言う。 「見せたかったんじゃないの?」 さっきと同じ、邪気のない顔で軽く首をかしげる。 「見せたいわけねぇし。それに、そういうのって見て見ぬふりするもんじゃないの」 心の中で、1人教会に向かった彼を恨んだ。開けといてくれって言うから開けといたのに、それがこんなことになるなんて思いもしなかった。 「まぁ、僕も出来れば見られたくないなぁ。恥ずかしいし、相手にも悪いし」 まったりと言う様子は、とてもそういう夜の匂いのする話をしているようには思えない。 「それが好きな子なら、余計に見られたくないかも。まぁ、見られたことはないけどね、そういうことはこっそりすることだし」

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