92 / 180

第92話

「ところでハニーは散歩に行くと言ってたが、どうだったんだ?」 手をつないで街に繰り出し、街角のカフェで昼食を取る合間、彼がふと尋ねてきた。 「えっ?」 「散歩さ、城の庭はずいぶん豪奢だそうじゃないか、俺も後で見たいと思っていた。どうだったんだ?」 コーヒーカップを指に引っ掛けて微笑む彼の向かいで、俺は野菜とベーコンたっぷりのベーグルを頬張っている。 一瞬間が開いて、何度か軽く頷く。あんまり無邪気に尋ねてくるから、一番に言いたかった変な奴に会ったことを言いそびれた。 「あ、うん、すごかったよ、広い芝生と森だった。街中じゃないみたいな」 「ほう、それは素晴らしいな。城から一歩出ればこんなに街なのに。異世界のようだ」 「なー。信じらんねぇよ。あの庭は観る価値ある」 その城から一歩出ればっていう街中も、赤茶けた石畳に同じ色の石造りの建物が並んでいて、森の中の開けた中世の都市って感じ。雰囲気が最高にいい。 「ハニーがそこまで言うのなら、ぜひ見に行こう。ハニーに案内してもらうぞ」 コーヒーを飲み干した彼の横顔を見ながら、ベーグルをごくっと飲み込む。言うタイミングとしてはここかな。 「でも俺、あんまり見てこなかった」

ともだちにシェアしよう!