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第94話

「じゃあせめてどんな容姿だったとか、どんな雰囲気だったとか、どんな感じだったんだ?」 とはいえちょっと食い下がってはいたけど。そのくらいのことなら、まぁいいか、言ったところで。 「うーんと、アレ、孔雀みたいな感じだった」 「孔雀?」 我ながらなんて例えするんだと思いながら、妥当な例えが見当たらない。 「すげぇ変な性格の孔雀って感じ?」 「俺は孔雀の性格について考えたこともないんだが、変な孔雀とは一体どんな孔雀なんだ?」 「うーん、うまく例えられないんだけどぉ」 「そもそも孔雀にあまり馴染みがないんだが。派手な鳥だという認識だが」 「ん、それで、あってる」 ベーグルの最後ひとかけらを口に放り込んで、咀嚼しながら言う。 言ってから悪いなと思ったけど、孔雀に例えたところで彼にはピンとこないのか。例えとしてはこれ以上的確な存在はないと思うんだけど。 「じゃあ、帰国したら動物園行こうか、孔雀改めて見てみたらわかると思う」 口角に少しひんやりとした感触。ベーコンについてたソースかもしれない。それを認識して、あんまり意識するでもなく口角に触れようとした瞬間、彼のすぐ後ろで、誰かが手を振っているのが見えた。

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