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第98話
「それなら、いつかちゃんと日本にお邪魔しようと思います。是非ともよろしくお願いいたします」
妙に恭しく、けれどねっとりとした調子で言う。しっかりとプライベートスペースに入り込まれて、俺は相変わらず、蛇に睨まれた蛙みたいな感じで小さくなっていた。
「それでは御機嫌よう」
一連のやりとりに満足したのか、ようやく少し体を離した。
「御機嫌よう。素敵な言葉ですね」
何も知らない彼は、孔雀の芳香に少しやられ気味だった。まったりと微笑む様子が、ハーメルンの笛吹きのように、そのままふらふらと王子について行ってしまいそうにすらみえる。
王子はそれを袖にするみたいに、軽く振り返って微笑み、街の喧騒に消えて行った。
「何しに来たいんだあいつ」
心がやっと息を吹き返す。王子様だかなんだか知らないけど、彼の前ででかい顔されたのは正直いけ好かない。けど、ちょっと萎縮しちゃったのも事実で。
「ハニーはあまり王子のことが好きではないみたいだな」
彼が苦笑する。彼が午前中の庭での出来事を知ったら、どんな顔をするだろう。
(っていうか、あいつ立場的に1人で外歩いて大丈夫なのか?)
って、考えることすら余計なことなんだけど。
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