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第108話
「あの別荘に行ったとき、本当にただのバカンスのつもりだった。シェフの言ってた通り、俺はストレートだったし……っていうか、こいつが例外ってだけで、今もどっちかといえばストレートなんだけど、大富豪のすごい別荘にお呼ばれすることなんてさ、一生のうちに何回もあるわけじゃないしと思って出かけただけで」
ポツポツと確かめるみたいに話すと、全員の視線が皿から俺に向いた。
「でも、本当に優しくしてくれて。ちょっと俺も気持ちが病んでる時期で、そのリフレッシュにもなるかなと思って別荘に行ったのもあるんだけど、病んでるの知っても彼はずっと優しくしてくれて、とにかく見守ってくれて。それで自然と彼のことを信頼するようになったっていうか」
うん、そうだ。彼のことを好きになるっていうか、信頼するようになったんだ。
「だから、なんていうのかな、単純な好きっていうよりは、彼のことを信頼した上で好きっていうか、なんていうか、その」
うまく言葉にできないでいると、首相がなんだかやたら嬉しそうな顔しながら言う。
「つまり、彼を愛しているということなんだね」
カトラリーから手を離して、テーブルの上にそっと肘をついて微笑まれた。
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