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第161話
「……」
ちょうど式の階段で目があったときと同じくらいの距離で、風景に溶け込むように立っている。でも、今日は近くに厳つい背広の男が何人かいる。
「王子だ。こっちを見ているな」
彼も気づいて少し声を潜めた。
「護衛みたいのいるから、今日は変なことしてこねぇよきっと」
とはいえ、出来ればもう視界にも入れたくなかった。話しかけられなければいいことにしようと思ったのに、あの男は薄笑いをしながら目もそらさずにこっちに近づいてくる。本当気持ち悪い。
とはいえ、そっちがその気なら、こっちだって考えがある。大切な彼を傷つけた落とし前、きっちりつけてやる。
「ハァイ、ステキなご夫婦、お元気ですか?」
人混みをかき分け、手をひらひらさせている。あからさまに俺たちをおちょくるようなこと言ってくるし。護衛も取り囲むみたいにゾロゾロついてくる。
「相変わらず美しい奥様、羨ましい限りです」
なんてモデル顔負けの綺麗な顔で微笑んでくる。
褒めてもらってどーもありがとう。でも涼しい顔していられるのも今のうちだ。
心の中で息巻く俺の隣で、彼が軽く咳払いする。
「あの、王子大変申し訳ないのですが」
話し出した声は、毅然としていた。
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