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第162話
「私の妻に何か御用がおありのようですが、私を通して話をしていただけませんか?」
なるべく誤解のないように、でも確実に牽制するように。
「妻が大変お世話になっているようですが、私の妻はこういう場には慣れておりません。まして一国の王子様とお話しするのはとても緊張するのです」
そして気遣いながら、丁寧に話をしてくれる。
「そのようですね、奥様はシャイです、そして可愛らしい。お話ししていてわかります。もっとお話ししたくなる」
こっちはこっちでそれとなく応戦してくる。俺の頭上で繰り広げられる、静かな舌戦だった。
「いや、あの、そういう意味ではなく」
「ではどういう意味?」
「だから、その」
でも彼が押され気味。相手が相手だから、揉めないようにするのに気を使うんだろうな。
俺に考えがあるっていうのはそういうのも想定の上。こういう時は、俺みたいに空気が読めないド庶民が、場をブチ壊すに限るんだ。
「ちょっと」
声をかけながら、向かい合う2人の間に入り込んで、彼の首に乱暴に手を伸ばす。そのまま抱え込むみたいにして、一気に彼の頭を引き寄せた。
貪るみたいに荒っぽく、ベッドの上でしかやらないようなキスを、王子様と護衛の目の前で思いっきり披露してやった。
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