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第166話
スマホの画面が雲がかかったみたいにうっすら暗くなる。視線を落としてた顔を上げた。
「失礼致します、奥様」
声をかけてきたのは、王子様。
ではなくて、いい声のおっちゃん。
(あれ、なんか見たことある、誰だっけ)
返す言葉もなく、何度か瞬きしてしまった。
既視感ある。けど思い出せない。
文字通り頭の中を思い巡らせて数秒、思い出したのは、ここにきた初日に世話になった、使用人のおっちゃんだった。
「あぁ!」
思い出した瞬間頭の中がスッキリして、つい指をさして大きな声を出してしまった。すぐに戻したけど。
「え、なに、ここ邪魔でした?」
すぐ思ったことは、俺が座っていた場所のこと。隅っこの邪魔にならない場所に陣取ったつもりだったけど、どけってことかもしれない。
自分と椅子を交互に指差しながら尋ねたけど、おっちゃんは首を横に振った。
「いいえマダム、実はご案内したい場所がございまして」
「マダム」
このおっさんにマダムと言うとは。突っ込もうとしてやめて無理やり飲み込む。
「案内ですか?」
おっちゃんを見上げたまま首を傾げた。なんかそういう趣向なんだろうか、とはいえ、ここを離れるわけにはいかない。
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