167 / 180
第167話
「生憎ですが、ここで夫を待ってるんです。ここを離れるわけにはいきません」
そのまま伝える。おっちゃんは表情を変えず、軽く頷くだけだった。
「ご安心ください、ご主人様より仰せつかっております」
「はぁ?」
全然話が読めない。あいつから仰せつかってるってどういうことだ?
(あぁ、もしかして)
その知り合いと話が長引くからとか?待ってる間暇だからどっか案内してやってくれって言われたとか?
このシチュエーションで合点がいくことが、そのくらいしか思いつかない。
「んー、わかりました」
腑に落ちないけど、城付きの執事みたいなこのおっちゃんが、別に嘘ついてるわけでもないだろうし、従うことにした。結構ですって言ったところで、おっちゃんは引き下がらなそうだったから。
俺の憶測が事実だとしたら、こうしておっちゃんに従っていること自体、モヤモヤを増幅させることだと思う。
彼も俺を思ってくれてのことだと思うし、憶測は憶測のままにしておきたい。
「どこ行くんすか?」
荷物もフロントで預かるというので、完全に手ぶらでおっちゃんの後についた。
城を出て、広い中庭に出る。おっちゃんは足早に、時々こっちを振り返りながら歩いていく。
ともだちにシェアしよう!