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第168話
そんなに見なくてもちゃんと付いてってるってのに。なんかソワソワしてるみたいに見える。
おっちゃんは何を話すでもなく、ロビーやホテル入り口の喧騒から離れるように、どんどん庭の奥に行く。おっちゃんはわざと迷路みたいな庭の中を入り組みながら歩いているみたいで、どこがなんだかもうわからない。
(……あれ)
でも、時折見たことある植木やオーナメントが見える。庭のつくりや雰囲気に、なんとなく見覚えがある。その時は人垣やもっと豪華な飾り付けで、あんまり目立ってなかったけど。
(いや、でも)
気のせいかもしれないし。広い敷地の中、似たような造形なんかいくらでもあるだろうし。
でも、やっぱなんか見たことあるんだよなぁ。
そう、それこそシェフの式の時に。
モヤモヤは別のモヤモヤを抱えて、見たことあるような無いような緑の森の中を歩く。
もう少ししたら、お菓子で出来た家とか、おばあちゃんのフリをした狼のいる家とか、そういう場所が現れるんじゃないかと思うほどだった。
けれど、俺の予想はすぐに外れた。
高い木の葉の茂りをくぐり抜けると、モヤモヤはパッと晴れてしまった。
「……教会」
ぽつっと呟いたのが日本語だったからか、おっちゃんは振り返らなかった。
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