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第169話

森を抜けたすぐ目の前に、教会の横顔がある。荘厳なつくりは横から見ても繊細で重厚で目を奪われる。 「あの、教会でなんかあるんですか?」 別にミサに参加したいとか、改宗したいとか、そういうつもりないんだけど。改宗どころか信仰心すらぼぼないに等しいのに。 おっちゃんはちらっと俺に振り返っただけで、特に何も話そうとはしなかった。 連れられるがまま、教会の壁沿いに歩いて正面の扉の前に来る。 シェフの結婚式の時は、荘厳な雰囲気そのままに、けれど結婚式らしく明るく華やかな飾り付けがされていた。けれど結婚式の終わった今、目の前の扉はシンプルで背の高い木の扉になっていた。 (人っ子一人いない) 観光名所の城、そして教会のはずなのに、俺とおっちゃん以外、外には誰もいない。不思議なくらい静かな空気の中にいた。 「どうぞ、私のご案内はここまででございます」 やっと喋ったと思ったら、おっちゃんは扉の目の前に立つ俺から少し離れて、すっと背筋を伸ばして立っている。 「えっ?」 聞いても、おっちゃんはじっと俺を見つめるだけ、何も話そうとはしない。 扉の前に立たされたまま。おっちゃんの態度から、扉を開ける以外の選択肢を選ぶことがためらわれた。

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