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第172話

「ハニー」 あと5メートルくらい。呟くみたいに言った彼の声、うっすら微笑む表情、やっと側で感じられる。 なんとか堪えていたけれど、彼の手が俺の体に触れられるくらいの距離になったとき、もう堪え切れなくて、一気に涙が溢れた。 「おま……何やってんだよ……っ!」 第一声がそれかよ。自分で自分にツッコむ。説教壇の前の彼の隣に立ち、彼の腕を掴んでボロボロ泣いた。 「友達に会うっつったじゃん! なんだよこれ……っ」 力なく、彼の胸を拳で軽く叩く。 もうダメだ、全然涙がおさまんない。なんだかよくわかんない感情が、胸の奥から溢れて止まらない。 「すまない、友達に会うというのは嘘だ。サプライズしたくてこっそり支度していたんだ」 彼の声は穏やかで、満足そうにも聞こえた。 「だから、サプライズ、へたっ」 白いタキシード似合ってねぇし、やり方強引だし、ドッキリに引っかかったみたいだし。 文句をいっぱい言ってやろうと思ったのに、それを上回って涙が溢れてきてろくに喋れもしない。 「俺たちは結婚式をしていないし、お前もここを気に入ってみたいだし、いい機会だと思ったんだ。滞在しているうちに、なんとしても式を挙げたかった」

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