173 / 180

第173話

俺を包むみたいに抱きしめてくる。 「愛してるハニー。急ごしらえになってしまったが、神様の前で愛を誓おう」 殊更優しく囁かれた。 その途端に。 何年振りだろう。声を上げて泣いたの。 我ながら汚い嗚咽が、とめどなく溢れてくる。 「っ、う……ぅ」 彼にしがみついて顔を埋める。タキシードを汚してしまうから、やめなきゃと思いもしたけど、どうしても彼から離れたくなくて、しがみついてしまっていた。 「あぁハニー、泣かないでくれ、お前のことを泣かせたくてこんなことをしたんじゃないんだ」 彼は彼で困惑している。そりゃそうか、彼の前でこんな風に泣いたことはないんだから。 「まずは着替えをしないか、お前に似合うタキシードを選んだんだ。ぜひ着てほしい」 殊更優しい彼の言葉に、ホント子供みたいに大きく頷く。適当なロンTにジーパン、俺だってこんな格好でここにいるべきじゃないことはわかってる。 名残惜しかったけど、ゆっくり彼から離れた。 「ここからはアタシに任せて」 旦那の隣から、シェフが手を振っている。 「普段はシェフだけど、今日はハニーちゃん専属のスタイリストを仰せつかったのよ」 ウインクしているのが見えた。確認するみたいに彼の顔を見ると、同じくウインクされる。

ともだちにシェアしよう!