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第173話
俺を包むみたいに抱きしめてくる。
「愛してるハニー。急ごしらえになってしまったが、神様の前で愛を誓おう」
殊更優しく囁かれた。
その途端に。
何年振りだろう。声を上げて泣いたの。
我ながら汚い嗚咽が、とめどなく溢れてくる。
「っ、う……ぅ」
彼にしがみついて顔を埋める。タキシードを汚してしまうから、やめなきゃと思いもしたけど、どうしても彼から離れたくなくて、しがみついてしまっていた。
「あぁハニー、泣かないでくれ、お前のことを泣かせたくてこんなことをしたんじゃないんだ」
彼は彼で困惑している。そりゃそうか、彼の前でこんな風に泣いたことはないんだから。
「まずは着替えをしないか、お前に似合うタキシードを選んだんだ。ぜひ着てほしい」
殊更優しい彼の言葉に、ホント子供みたいに大きく頷く。適当なロンTにジーパン、俺だってこんな格好でここにいるべきじゃないことはわかってる。
名残惜しかったけど、ゆっくり彼から離れた。
「ここからはアタシに任せて」
旦那の隣から、シェフが手を振っている。
「普段はシェフだけど、今日はハニーちゃん専属のスタイリストを仰せつかったのよ」
ウインクしているのが見えた。確認するみたいに彼の顔を見ると、同じくウインクされる。
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