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第175話

鏡に全身を映すと、あまりにもきちんとした身なりで、ベタな話だけど自分じゃないみたいだった。もう一生こんな格好しないだろうな。もちろん、一生に一回で十分だけど。 シェフの手伝いはそこまでで、改めての入場はなぜか日本政府の人の腕を借りた。 「いやー、緊張しますねー、うちの娘の結婚式以来ですよ」 「ああ……そうなんですか……」 なんで知らないおっさんにエスコートされるのかわかんないけど、それも彼の演出らしい。 「うちの娘は長く付き合ってたパートナーと結婚したんですよ、女性なんですけどねー。結婚しないって言ってたんですよ、でも法律が変わったから、うちの娘は結婚したんです」 言いながら、おっさんの目尻は下がっていた。 「へぇ、そうなんすか」 「最初はびっくりしたんですけどね、でもいいんですよ、娘の人生なんですから。あなた方のように幸せなら。なんとかやってるようですし」 その分だと多分、その娘さんというのも幸せに暮らしているんだろう。 ドアが開いた。さっきと同じように、ずっと奥に彼がいる。 「さ、行きましょう!」 俺よりもおっさんの方が気合十分だった。俺は逆にちょっと引きずられるみたいにしながら、バージンロードを歩いたのだった。

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