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第176話
改めて、しっかりと、一歩一歩、踏みしめて歩く。
汚れも色褪せもない、同じ赤色が彼まで続いている。
あ、ヤバい、またちょっと泣きそう。
無理矢理堪えて、鼻をすする。
あと五メートルくらいのところで、俺はおっさんから彼に預けられた。
「お幸せに」
離れる時、日本語でそう言われた。ちょっとグッとくる。
「どうも」
また泣きそうになって、それくらいしか返せなかった。
そして、再び彼と向かい合う。
見慣れたんだかなんなんだかわかんないけど、真っ白いタキシードも似合っているような気がする。
「ハニー、やはり美しい。似合っている」
そういえば、タキシード着てすぐにヘアメイクされたから、衣装を味わう時間がなかった。
ちょっと燕尾風の、ケツの方の裾が長い真っ白のタキシード。中に着たワイシャツはボタンのあたりにフリルがついてて、ここだけちょっと可愛い感じ。革張りの靴も真っ白くて、ヨゴレの俺なんかが着ていいのか本当に戸惑っちゃう。もちろんそんなもの生まれて一度も着たことはない。
「お前も似合ってるよ。選んでくれてありがとう」
当たり前だけど、俺のタキシードは彼のより小さくて、なんだかミニチュアになったみたいだなと思った。
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