176 / 180

第176話

改めて、しっかりと、一歩一歩、踏みしめて歩く。 汚れも色褪せもない、同じ赤色が彼まで続いている。 あ、ヤバい、またちょっと泣きそう。 無理矢理堪えて、鼻をすする。 あと五メートルくらいのところで、俺はおっさんから彼に預けられた。 「お幸せに」 離れる時、日本語でそう言われた。ちょっとグッとくる。 「どうも」 また泣きそうになって、それくらいしか返せなかった。 そして、再び彼と向かい合う。 見慣れたんだかなんなんだかわかんないけど、真っ白いタキシードも似合っているような気がする。 「ハニー、やはり美しい。似合っている」 そういえば、タキシード着てすぐにヘアメイクされたから、衣装を味わう時間がなかった。 ちょっと燕尾風の、ケツの方の裾が長い真っ白のタキシード。中に着たワイシャツはボタンのあたりにフリルがついてて、ここだけちょっと可愛い感じ。革張りの靴も真っ白くて、ヨゴレの俺なんかが着ていいのか本当に戸惑っちゃう。もちろんそんなもの生まれて一度も着たことはない。 「お前も似合ってるよ。選んでくれてありがとう」 当たり前だけど、俺のタキシードは彼のより小さくて、なんだかミニチュアになったみたいだなと思った。

ともだちにシェアしよう!