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光射す午後に6

「薫?どうしたの?」 「え……いや、何だい?」 冴香は細い眉をきゅっと顰めて、顔を覗き込んでくる。 「なんだか……顔色悪いわ」 薫は微妙に冴香から目を逸らし、苦笑した。 「ああ……いや、実はちょっとね。人混みに酔ったのかな。大丈夫だ。ここは空気がこもっているからな」 冴香はすかさず手を伸ばして額にあててきて 「熱は……ないみたい。でも本当に顔色が悪いわ。もう、出ましょう。買い物も済んだし。ちょっと外の空気を吸った方がいいわ」 「ああ。そうするよ」 本屋を出て、駐車場近くの入り口まで行くと、カートに積んでいた食料品の袋を両手に持つ。 「大丈夫?私も半分持つわ」 「大丈夫だよ。これぐらい。すまないな」 「ここ、品揃えは豊富だけど空調が悪いのよね。外に出るとほっとするもの」 冴香はそう言って微笑むと 「具合、良くないなら私が運転する?」 「そうしてくれるかい?助かるよ、奥さん」 車に辿り着くと、荷物を後ろに積み込んで、助手席側に回った。ドアに手を掛けながら、今出てきた店の方をそっと見る。 結局、会うことは出来なかった。 だが、思ったよりも元気そうで、幸せそうな……樹を見ることが出来た。 胸の奥の痛みはなかなか消えていかない。 それでも、割り切るしかないのだ。 自分と樹は、今は別々の人生を生きている。 自分が冴香と結婚したように、樹にも誰か他の大切な人がいる。別に驚くことじゃない。 7年前のあの共に過ごした日々の方が、夢のような時間だった。現実離れしていた。 実の兄弟が、愛し合って身体を重ねるなんて、やはり許されないことだったのだ。 樹に、誰よりも幸せになって欲しいと思ったあの頃の気持ちは嘘ではない。 今、彼があの女性と幸せな日々を過ごしているのなら……やはり自分と樹は会うべきではないのだ。 ……樹……。 薫は心の中で彼の名を呼んでから、大きく深呼吸をした。 胸の奥の痛みは、消えてくれない。 それでも、諦めるしかないのか。 「樹……」 小さく名前を呟いてみる。 『なに?にいさん』 風の音が、そう囁いたように聴こえた。 ……樹……っ 薫は助手席のドアを開けてると、気遣わしげな表情で自分を見つめる冴香に 「ごめん、冴香。ちょっと、ここで待っててくれないか?ひとつ、買い忘れた」 「……え?何を?」 「すぐ、戻る。ごめん」 まだ何か言おうとしている冴香を無視して、薫はドアを閉めると、店の方に走り出した。 ……ダメだ。やっぱり、ダメだっ。

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