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光射す午後に14
月城は微笑みを消し、和臣の上に屈み込んだ。怯む様子もなく、自分を見上げる彼の目をじ…っと覗き込み
「好奇心は猫を殺すよ。君はそのせいでこんな状況になっているんじゃないのかい?」
和臣はふんっと鼻を鳴らし
「脅したって無駄。俺、いろいろ修羅場見ちゃってるから。今さらあんたみたいな優男の脅しに屈したりしないよ」
月城は凄むのをやめて、ため息をついた。
「樹くんのこと、知ってどうするの?本来なら君には関係のないことだったんだよ。君が、余計な首を突っ込んだりしなければ、ね」
和臣はぷいっと目を逸らし
「お説教なんか要らない。あの頃はガキだったからね。うっかり首突っ込んだって自覚あるよ。お陰で散々ひっでぇ目に遭ったし。でも今さらだろ?どうせ元には戻らないんだ」
「樹くんは君を、ご両親の元に戻したいと思っているんだよ。山形のご実家に」
和臣はキッとこちらを睨みつけた。
「冗談。帰らないよ。俺は、真実が知りたいんだ」
月城は無言で和臣の目を見つめた。
意思の強そうな眼差しだ。これほど痛い思いをしても、少しも怯まず腐らず、真っ直ぐに自分を睨み付けてくる。
……これは……手強いな……。
樹は、無関係な和臣をこれ以上巻き込みたくないのだ。だが、本人が納得しなければ、実家に戻してもまた首を突っ込んでくるだろう。
今回は廃人にならずに済んだが、再び彼らに捕まったら……次は間違いなく命を落とす。
……樹くん。申し訳ないが、あなたに出てきてもらうしかないようだ。
月城はそっと目を伏せると
「わかった。じゃあ、樹くんに会わせるよ」
「……いつ?」
「今すぐは無理だ。君ももう少し大人しく治療を受けないと。来週。樹くんがこちらに戻ってきたら、ここに来てもらおう」
和臣はホッとしたように、身体の力を抜いた。
途端に、青白い顔に疲労の色が増す。
和臣はまだ若いから、あの状況から抜け出してしっかり治療さえすれば、回復は早いはずだ。
しばらくは、また勝手なことをしないように、自分が見張っている方がいいだろう。
「さぁ。目を閉じて少し休みなさい。君は弱ってる。充分な休息が必要だよ」
和臣は、さっきとはうって変わってとろんとした表情になると、重い目蓋に抗えない様子で素直に目を閉じた。
……薬が効いてきたのか。
医者は、完全に薬物を抜き切るには、最低2週間は掛かると言っていた。
ここは付き添い用の部屋が隣にある特別ルームだ。今のところ、急を要する用事は何もない。パソコンが1台あれば、この隣の部屋でも充分に仕事は出来る。
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