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愛しさの先にあるもの11※
「樹。兄にまずおまえのどんな姿を見てもらいたい?」
加賀見は舌舐めずりしながら囁くと、
「シャツを掴んで広げなさい」
樹はおずおずと命じられた通りにシャツを左右に開いた。その白い滑らかな胸には、和臣のようなタトゥは刻まれていない。その代わりに、右の小さな尖りには、シンプルなプラチナのリングピアスが揺れている。
「ほう……これは素敵な飾りだな。あの男の趣味か?」
加賀見が言っているあの男とは、アメリカで奴隷のように男たちに飼われ慰みものにされていた樹を助け出し、教育を施し、今も後ろ盾となってくれている養父のことだ。むろん、あの人に加賀見のような下心も異常性癖もない。それどころか親に見捨てられロクな教育も受けさせられずに大人たちのおもちゃにされていた樹の、隠れた能力を見い出し、1人で生きていく術を授けてくれた恩人なのだ。
あのピアスはアメリカにいた時、パトロンだった男の1人から無理やりつけられたものだ。
だからもちろん助け出された後は、自分の意思で外せたのだ。だが樹は何故か今も、あれをずっとつけ続けている。
加賀見は樹の表情を観察しながら、リングに小指の先を引っ掛けて、くいくいっと引っ張った。
「…っぁ、ぁぁ…っぁ、」
樹の身体がビクビクと跳ねる。仰け反った顔はせつなげで、きつく眉を寄せていた。
「ふふ。やはりおまえは淫らなメス猫だな。真っ当な生活などしていても、この身体は男たちを咥え込まずにいられんのだろう?」
加賀見の勝手な言い草に、月城はギリギリと奥歯を噛み締めた。
幼かった樹の身体をそういう風に仕込み、調教してきたのは、巧や加賀見のような下衆な大人たちだ。
かつての自分もそうだった。
まだ異性に対する恋の芽生えすら経験がなく、性愛の知識すらなかったこの身体は、倒錯した異常性愛のはけ口にされ、薬を使われて強制的に仕込まれたのだ。逆らえば暴力を振るわれ、逃げ出せないように拘束されて。
「ぁ……っくぅ……ぁ…っ」
加賀見はリングを引っ張りながら、もう一方の尖りを指先で摘んで捏ねくり回す。樹は喘ぎながら身を捩った。
薫の表情を窺ってみるが、その眼差しは虚ろで、まるで人形のようだ。
……見えているのか?認識出来ているのか?
もし、何も分からなくなっているのならば、その方がいい。その方が樹にとっては救いだ。
「樹。脚を開きなさい。それでは兄にちゃんと見て貰えないぞ」
樹は痛みと快感に喘ぎながら、いやいやをするように首を振った。
「逆らうな。兄をここから救い出したいのだろう?それとも…もっと薬を足して欲しいのか?」
樹はか細い悲鳴のような泣き声をあげ、屈辱に震える脚を大きく左右に開いていく。
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