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月の光・星の光19
「あんたが……あの人を利用……?」
怪訝な顔をする和臣に、樹は頷いて
「うん。僕には僕なりの考えがあって、あの人の助力が必要だった。そしてあの人にも、僕を助けるのにはそれなりの理由がある。もちろん、それだけじゃなくて、人道的な支援のお気持ちもあって、そのことに対しては、僕はすごく感謝してる。彼がいなければ、僕は日本に戻ることは出来なかったから」
和臣は、憮然とした表情で黙り込んでいる月城の方をちらっと見て
「ふーん……。よく分かんないけど……いろいろ複雑なんだな」
「うん。たぶん和臣くんが思ってるより、僕と朝霧さんの関係は、ビジネスライクかも。だからあの人が、僕をそういう対象に見てるっていうのは、絶対にないと思う」
和臣は紙カップからストローを抜き取ると、指先でいじり始めた。
「ビジネス……ね。じゃあ、あの人にも樹さんを養子にすることで、何らかのメリットがあるってことか。それって今、樹さんがやってる仕事と関係あるわけ?」
「そう……だね。関係は、あるよ」
和臣はストローをスポイトのようにして水滴を捕まえると、紙ナプキンの上にちょんちょんっと垂らしていく。
「じゃ、もう1人の養子ってのも、その仕事に関わってんのか?」
樹はクスッと笑った。
「和臣くん、好奇心旺盛」
和臣は視線をあげ、樹を睨んで首を竦め
「まあね。そのせいで入院までする羽目になってんだし」
樹はまた身を乗り出した。
「知れば、君も無関係じゃいられなくなる。深みにハマるよ?」
和臣はふんっと鼻を鳴らした。
「よく言うよ。あんた、俺にその仕事させる気満々なんだろ?月城さんが俺にお勉強道具、押し付けてきてるじゃん」
「うん。君にその気があるなら、和臣くん。通信教育でまずは高卒の資格をとってみない?」
和臣は眉に縦じわを寄せた。
「要らねえ。今更、高卒の資格とか」
「学校に通うのは、当分は無理かも。あいつらに居場所が知られてしまうから。でも、勉強は必要。君のこれからの人生の為に」
和臣はズイっと身を乗り出して、樹に顔を突き付けた。
「なんで俺に、そこまですんの?償いの為、とか言っちゃう?」
樹は自分に真っ直ぐ向けられている、強い眼差しを受け止めた。
和臣はちゃらんぽらんに見せかけて、決して鈍い男ではない。適当に誤魔化してあしらってみても、気になることがあれば勝手に探り回ってしまうだろう。
「投資のため」
「……は?」
「君を巻き込んでしまった責任は感じてる。でもこれは、将来に向けての投資」
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