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月の光・星の光20
「俺に投資とか、意味わかんねえ。そんな価値、あるかよ」
和臣は拗ねたようにそっぽを向いた。
「あるよ。君には、僕にないものがたくさんある」
和臣はテーブルにだらしなく突っ伏して
「あんたの口から、投資とか。そういう言葉が出てくんの、意外すぎ」
「そう?」
和臣は伸ばした指先で、空のコップを転がしながら
「そういうイメージ、ねえもん」
樹はくすっと笑った。
「君の中で、僕のイメージって?」
「清純無垢。世間知らずの籠の鳥」
すかさず返してきた和臣の言葉に、樹は一瞬目を見張り、苦笑した。
「なに、それ。……和臣くんって、やっぱり変わってる」
「変わってんのはあんたの方だろ。巧のおっさんがさ、ベッドの中でよくあんたの話をしてた」
和臣の呟きに、月城と樹はハッと息を飲む。たしなめようと口を開きかけた月城の腕を、樹はそっと押さえて首を横に振る。
「あいつ、ガチでイカれたおっさんだったけどさ。樹さんの話をしてる時は常軌を逸してたよね。なんか…聞いてて寒気がした。狂ってた、マジで」
「……そう。例えば……どんな話?」
和臣は遠くを見るような目になって
「成長を止めたいって、よく言ってたぜ。あの子はあれが完成形だから。くだらない大人にさせたくないってさ」
「……なるほど……。狂ってるね」
「ほんと。あいつ、頭おかしい。俺、これまでいろんな大人、見てきたけどさ。あのおっさんが1番イカれてた。俺にあれこれエロいことさせながら、よく比べられたよね。樹さんのことを話す時のあいつの目……思い出しただけでゾッとする」
樹は黙り込み、紙コップにさしたストローの先をじっと見つめた。
月城は食べ終わった包み紙をクシャッと丸めると
「そろそろ帰ろう。病院の面会時間、終わってしまうからね。和臣くん、明日、先生に退院出来るか聞いてみるよ」
和臣はガバッと身を起こした。
「ほんと?俺、退院してもいいの?」
月城は小さく溜息をついて
「後遺症もなくてそれだけ元気なら、病院でじっとしているのは辛いだろう?君は樹さんのマンションに連れて行くよ。そこで、今後についてちゃんと話し合おう。さっきの通信教育の話も含めてね」
和臣は月城から樹に視線を移し、何か言いかけて首を竦めると
「退院出来るんなら何処にでも行く。どうせ帰るとこなんかねえし」
樹は目を伏せたまま、立ち上がった。
「行こう。戻る前に朝霧さんに、電話してみる」
月城と和臣もトレーを手に立ち上がった。
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