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月の光・星の光27
奥の続き部屋に、いつもなら月城が泊まり込んで過ごしている控え室がある。そこには簡易ベッドやソファーなども置いてあって、付き添いの人間も身体を休めることが出来る。
でも、その部屋を使うつもりはなかった。
既婚者の薫と、こうして穏やかな夜を2人きりで過ごせる機会は、もう2度とないかもしれない。
樹はただ黙って薫を見つめていた。
なんて幸せな贈り物だろう。こんな時間を過ごせるなんて。
薫は薬が効いているのか規則正しい寝息をたてていたが、時折、きゅっと眉を寄せて辛そうな顔になる。
どんな夢を見ているのだろう。
あいつらに拉致されて要らぬ恐怖を味わった。その記憶が優しい兄に悪さをしないで欲しいと願う。
薫の近況は、朝霧の部下の情報網を使って、ある程度は把握していた。
あの頃、薫が目を輝かせて語っていた将来の夢。今、薫はその夢を叶える仕事について、毎日忙しく過ごしているのだ。
薫が繰り返し語ってくれた将来は、いつしか樹にとっても未来を灯す光になっていた。
薫の日常を脅かすものは、絶対に許せない。だからこそ自分は、この懐かしい故郷を大好きな兄のいるこの地を、もう離れなければいけない。
遠く離れていても、兄を想うことは出来る。マンションを買ったのは、本当に未練だった。薫の側に自分はいる資格がない。
あそこは、活動の為の中継拠点として月城たちに管理を任せ、なるべく早く東京に戻ろう。向こうに戻れば、やらなければならないことはたくさんある。自分たちの活動も、まだ始まったばかりなのだ。
「ん……」
薫がまた、ぎゅっと眉を顰めた。
少し苦しげに吐息を漏らす。
樹は滲んできた涙を指先でそっと拭うと、腰を浮かせて薫の顔を覗き込んだ。
薫の目蓋が震えて、ゆっくりと目を開ける。
「ん……」
「……兄さん……?苦しい?」
驚かさないように囁くような声で問うと、ぼんやりしていた薫の瞳が焦点を結んだ。
「……樹……」
「熱、あがってきた?」
樹は恐る恐る手を伸ばすと、少し顔の赤い薫のおでこに手のひらをあてた。
やはり熱が出ている。
「交換する。待ってて」
ベッドの脇の冷蔵庫の前にしゃがんで扉を開けた。ストックされている冷シートを取り出して、おでこの温くなったシートと取り替えると、薫はホッとしたようにほお…っと吐息を漏らした。
「お水、飲む?」
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