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月の光・星の光45

「大丈夫だって。全然平気。こんなとこで中断されても、もやもやするだけだし」 和臣は吐き出すように呟くと、樹の手を振り払った。 感情をセーブ出来なくて、せっかく気遣ってくれている樹にまで、苛立つ気持ちそのままにぶっきらぼうに返してしまった。 ……ばか。落ち着けって。 和臣は唇を噛み締めた。 月城だけでなく歳の近い樹ですら、こんな理不尽な話をまるで悟ったように穏やかに聞いている。 そのことに更にイライラが増すのだ。 何故、怒らない? 何故、受け入れる? どうしてもっと感情を剥き出しにしない? 2人に会った時から感じていた違和感の正体が、分かった気がした。 彼らは老成し過ぎているのだ。生身の感情が伝わって来ない。まるで悟りきって全てを諦めているように。 「じゃああんたは……あの男が好きだったの?」 オブラートで包んだような曖昧な説明は要らない。もっと、2人の本音が知りたい。 月城は一瞬、目を伏せかけて瞬きをした。 「好き……だった。うん、そうだね」 「あの男を?なんで?優しくされたから?」 キツい問いかけに、月城はまたゆっくり瞬きをして 「好きの理由なんて……分からない。でも、敢えて言うなら……彼は僕の世界の、全てだったから」 「……全て……。だって、それは、」 「僕は巧さんから、何もかも教わったんだ。日常生活のちょっとしたことから始まって、学校で学ぶべき勉強から、ものの感じ方、価値観、感覚の全てをね。親の温もりは貰えなかったけど、人との関わり方や社会との接点も、全て。僕はいつも、巧さんの目を通して世界を見ていた。本当に……彼は僕の世界の全てだったんだ」 ひとつひとつ、確認するように噛み締めるように話す月城の視線は遠い。 その頃の自分とあの男のことを、思い出しているのだろうか。 「洗脳、されてたんだ、あんた。あいつに支配されて。閉じ込められて」 月城の視線が戻ってきた。彼は薄く微笑みを浮かべて 「うん、洗脳。そうだね。そういうことに、なるんだろうな」 「逃げようとか、思わなかったんだ?」 「いや……。何度か逃げようとしたよ。その度に捕まって連れ戻された」 和臣は眉に皺を寄せて 「じゃ、やっぱ嫌だったんじゃん。あいつのこと」 月城は困ったように苦笑して 「難しいんだよ。僕のあの頃の感情を誰かに説明するのは。僕自身も、よく分からないこともあるし。でもそうやって、僕と巧さんの2人だけの日々は続いていた。樹くんが、巧さんの前に現れるまでは……ね」 和臣はちらっと樹の方を見てから、月城を睨みつけた。 「あいつは……あんたから樹さんに鞍替えしたのか?」

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