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月の光・星の光46
「巧さんは……いわゆるペドフィリアではないけれど、限りなく小児性愛の傾向に近い性癖だった。彼が好きなのは性的にまだ未熟な10代までの男の子だったんだよ。僕はその頃もう20歳を過ぎていたからね。彼の性愛の対象からはとっくに外れていたんだ。彼に言わせると、僕は成長が思ったよりも早かったそうだ。20歳を過ぎてからも彼は僕を抱いたけど、以前のような熱意はなくなっていた。おまえの時を止めることが出来ないのが残念だ…と……よく言われたよ」
淡々と語る月城の話の内容に吐き気がする。
人は玩具ではないのだ。大人になり過ぎたから興味を持てなくなった。そんな風に勝手な理由で突き放されるなんてゾッとする。それは愛情なんかではない。ひとりの人間として、扱われてさえいない。
「……最悪。最低だ、あの男。反吐が出る」
「本当だね……。僕もそう思う。彼は自分の身勝手さの責任を、ぜんぶ僕に押し付けていたからね。10代のまま、時を止められる人間なんかいない。そんなこと、初めから分かっていたはずなのに」
月城は少しひずんだ声でそう呟くと、樹の方にちらっと視線を向けた。
樹は、グラスを両手で包み、黙って見つめている。その表情からは、相変わらずなんの感情も読み取れそうにない。
「許せたの?月城さんは、あいつの勝手な態度を。大人になったあんたから、あっさり樹さんに鞍替えしたあいつのことを、あんたは許せたの?」
月城は目を伏せると
「いや。僕は、彼が樹さんに夢中になり始めたのを知って、その時初めて……自分の中の知らない感情に気づいた。嫉妬していたんだ、僕は、樹さんに。それまで感じたことのない、すごく激しい感情だった。胸の奥がどす黒く染まっていくような。哀しみとか怒りとか、悔しさとか痛みとか、いろいろな感情が一気に押し寄せてきて、僕は自分が怖かった。巧さんは樹さんに接する時には、必ず僕を傍に付き添わせていたからね。僕は黙って巧さんのすることを見ながら、樹さんを……心の中で何度も締め殺していた」
「……っ」
思いがけず月城の口から飛び出した激しい言葉に、和臣はヒヤリとしてそっと樹の表情を窺った。
この話は全て、樹には話している。
そう、月城は言っていたが、こんなことまで話していたのだろうか。
「憎しみで人が殺せたらいいのに……。僕は樹さんの姿を目にする度に、心の中でそう思っていたよ」
「憎んでたの?樹さんを」
声が掠れてしまった。
隣で話を聞いているはずの樹の表情が、少しも変わらないのが、怖い。何を考えているのだろう。どう感じているのだろう。まったく分からない。
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