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 隆俊は風邪で発熱したような気怠さと身体の奥底から突き上げる欲望に苛まれ体力を奪われていた。ヒートが終わりここから出ることになった後、自分が何をやらされるのか考えると恐ろしくなる。あの嫌な男牧野が手札として自分を誰かに差し出し代わりに何を要求するのか。  マスコミ、警察、オリジン……世の中全てのものが自分を社会的に抹殺するだろう。もしかしたら本当に命を奪われるかもしれない。でも……それでいい。オリジンとのハーフという身分で長生きしても苦悩と蔑みにまみれた惨めなものになるだけだ。どこの階級にも属することのできない半端者に幸せなどありはしない。  室内のモニターは居眠りする見張りの姿を延々と映している。今この部屋を出てリビングに行ったらこの家にいる男達が我を忘れて襲いかかってくるだろう。さんざん(なぶ)られてボロ雑巾のようにクタクタになり死ねる可能性はどのくらいか。  薄く目をあけて映像を見ていた隆俊は思わず呟いた。 「誰?」  その男は居眠りしている男の自由を難なく奪い周囲に目を動かしている。そして隆俊の姿が見えるかのようにヒタと視線を合わせた。  真っ黒のパーカーのフードを外すとシルバグレーの光る髪が現れた。肌は青く白い。瞳はアイスブルーで中心にある黒い瞳孔がしっとりと濡れている。高い鼻、知識の裏付けのようななめらかな額。頬骨はあるべき高さに皮膚をおしあげテレビの光を映していた。唇は冷酷の象徴のように薄い、だが……目を離すのが惜しいと思わせる魅力がある。 「滝田隆俊」  声は深く穏やかでわずかにビブラートしている。 「滝田隆俊。そこに留まるのか、生きるか死ぬか選びなさい」  三択……まだ自分に選択肢があるということか。隆俊は牧野の言葉を思い出した。『お前に何かを望む権利はない。ましてや死ぬなど俺が許さない!』  ここに留まる選択肢はない。牧野の手札として晒し者になるのは嫌だ。残りは二つ――生きるか、死ぬか。どちらを選ぶにしてもこの部屋から出よう。隆俊はそう決め【OPEN】のスイッチを押した。  堅牢な分厚い扉がゆっくりと開く。少しずつ大きくなっていくリビングの中に男の姿が現れた。 ドクン  強くて重たい鼓動。 ドクン  体温が急激に下がり、隆俊は狼狽えた。先ほどまで熱を帯びていたはずの身体が冷たくなっていく。指先が痛みを覚えるほどに。 ドクン  男は大きかった。牧野の冷酷さとは別の鋭く冷たい視線。ひたと見詰められ隆俊は息を止めた。男の身体から青い炎が揺らいでいる。本物の炎なのか男の持つオーラなのか隆俊にはわからなかった。『特別な男』と内なる自分が囁いている。特別な男……特別な男。 ドクン  何の前触れもなく周囲が暗闇に沈んだ。

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