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Wednesday:1

 朝日が差し込むリビングでロウはアイスティーを飲んでいた。この家はキッチンとリビング、寝室、水回りだけのこじんまりとした造りだ。ロウ以外の人間が来ることがないのでスペースとしては十分で使い勝手がいい。  対象が寝室からでてくるのは何時ごろだろうか。ロウは対象と呼び続けていた滝田隆俊の呼び名をどうするべきか考えている。「滝田さん」「滝田」どちらもしっくりこない。「君」ぐらいにしておいたほうがいいだろう。  ロウは寝室の物音をキャッチした。布団が動く音がしたあと床に足が置かれた。ギシリとベッドのスプリングがきしみ足音が続く。目を覚まし疑問だらけの状況を持て余しているだろう。牧野のもとから連れ出した男は味方なのか敵なのかと訝しんでいる(答えはどちらも違うのだが)  隆俊がリビングに恐る恐るといった動作で入ってきた。 「あの……ええと」 「シャワーを浴びたらいい。その奥が浴室だ」 「あなたはいったい」 「まずは身ぎれいにすることが先だ。そのあと話をしよう。君の疑問に答える」  隆俊は浴室に向かうことをためらっている。パニックルームで過ごしたせいもあり隆俊の匂いは不快なものが混ざっていた。重く甘い匂いはすっかり消えているからヒートは終わったのだろう。  ロウはようやく隆俊の躊躇の意味を理解した。ヒート状態のΩを前にした男にシャワーを浴びろと言われれば戸惑うだろう。その先に起こる事を想定したが聞くに聞けないといったところか。 「私は君のしたくないことを強要するつもりはない。言ったはずだ、君には選択肢を与えると。話をするまえに牧野たちの痕跡を洗い流すべきだ。君はこれからの人生をどうするベきか選択を迫られている。頭と身体をクリアにしたほうがいい」  隆俊は頷くと浴室に向かった。  頭からお湯をかぶり身体をゴシゴシ洗った。隆俊は僅か数日で自分の人生が混乱した現実を呑み込めずにいた。情が薄くネグレクトすれすれの母親に期待することは小さい頃に諦めていた。産みたくて産んだのかもしれないが子供を欲しがった理由が最悪だ。勝手に作られた挙句 『ボーダレス』の手札とは生まれた意味がない。いままで生きてきて良かったことはほぼないことに隆俊は気づいた。  誰かに必要とされる……そんなことは夢のまた夢だ。番だマッチングだと夢をみているΩたちを横目に、隆俊はあり得ない望みは持つべきではないと早々に諦めた。  刑事が来て火事が起こり、知らない男にメモを渡された。牧野から『ボーダレス』のたくらみと母親の裏切りを知り絶望して生きることをやめようと決めた。  そうだ、俺は死のうと決めた。一生追われる人生はごめんだ。捕まって晒し者にされるのも嫌だ。死ねばすべてが丸く収まる。  あの男は生きろと説得するだろう。隆俊は男が悪い人間に思えなかった。見下す視線や値踏みするような目つきもない。あの男は人を殺すタイプだろうか?牧野の所から連れ出すように誰に言われたのか……直接聞くしかない。  浴室を出ると新しいTシャツとスエットパンツが置かれていた。下着もちゃんとある。でも油断できない。牧野の所で拘束されていないから人質ではないと考えたあと、どうなったか。自分の経験値の低さと対応力のなさが情けない。  でも話をすれば答えが見つかる。そして死ぬと決めたと言えばいいだけだ。簡単なことだ。隆俊はそう結論づけてリビングに向かった。

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