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Wednesday:3
15分ほどたった頃、ようやく隆俊が話し始めた。
「俺みたいな……ハーフは他にもいるって牧野が言っていた」
「だろうな。日本だけではなく世界規模の計画のようだ」
「Ωは一番利用価値があるって。金とセックスに恥が加わると強力になるらしい」
「この世の中の仕組みにはウンザリしている。命は全てが平等で尊いという主張には賛成だ。だがその世界を創るために『ボーダレス』がやっていることには反吐がでる。彼らは等しい世界を望んでいない。オリジンを蹴落とし自分達が世界を牛耳りたいだけだ」
「どんな世の中になってもΩはΩだ。変わりようがない」
隆俊は生きることに絶望している。生きたくないと心が叫んでいる。説得をするつもりはないが隆俊にはきちんと考えてほしかった。ロウは自分の生い立ちを話すことにした。
「私には両親がいない」
隆俊は歪んだ笑みを浮かべた。
「俺にはいるけれど、いないほうがマシってクズな親だ」
「私もハーフだ」
「へえ。オリジン同士だろ?純粋な日本人には見えないし」
アイスブルーの瞳は日の光をあびてライトグレーの色味を帯びていた。北欧のような寒い国の生まれなのかもしれない。隆俊はそんなことをボンヤリ考えた。
「私は人間と狼のハーフ。ハーフというよりキメラ だ」
驚いたせいで腕が動きティッシュの箱をテーブルから弾き飛ばした。狼?向かい側の男が嘘を言っているように見えないが隆俊は全身で拒絶した。信じられないし聞いたこともない。
「信じたくないのはわかるが君と同じようにキメラは私一人ではない」
「は?」
「私の名前はロウ・チャーリー。「ロウ」は人狼 のロウ、「チャーリー」はアルファベットを示すフォネティックコードから取られた。アルファ 、ブラボー 、チャーリー 、すなわち三番目」
淡々と語るロウ・チャーリーと名乗る男を見詰めたまま隆俊は声をだすことができなかった。もし本当だとしたら機密扱いの重要人物ではないか。
「デルタ 、エコー が存在するのか、すでにズールー まで生み出されているのか私は知らない。もし君が生きるという選択をしたのなら私を作った組織に連れて行こう。外部からの干渉は一切ないから生きていることを隠すことができる」
「他のキメラに……会ったことは?」
「ない」
即答。
「私は君が姿をくらませた翌日には居場所を特定していた。君の匂いを辿って。
狼の嗅覚は人間の100万倍だ。時速30km程度なら7時間以上獲物を追い続けることができる。私はそこまでの能力はないが、一般的な人間よりはるかに優っているだろう」
隆俊はロウが言っていることは事実だとなぜか思えた。自分の人生が根っこからぽきんと折れた現実以上に信じることができた。この男は嘘を言っていない。
「信じられないけど……本当なんだね」
「ああ。そうだ」
「あの……もう少し考えても?」
「三日くらいは時間がある」
「わかった。それまでには決めるよ。それでここは安全?」
ロウはニヤリと笑って見せた。
「ああ。私を出し抜ける人間はいない」
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