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Midnight

 街灯がなく余計な光源がないおかげで夜空には星が煌めいている。数多の星を従えているのは銀色に輝く満月。 寝室からは落ち着かない様子の音がずっと聞こえている。何度も寝がえりをうっているのだろう。悩むということは死ぬことよりも生きることに傾いている証。結論がでなければそれも答えの一つだ。ここを出て別の場所に連れて行けばいい。  隆俊はこの家に来てから雰囲気が変わった。怯えたり卑屈になることはなくゆったりと過ごしている。時には笑顔を浮かべ平穏な時間を楽しんでいるように見えた。もっと自分に自信をもてるようになれば、厄介ごとから遠ざかることができるだろう。  私なら導くことができる――今日は何度もそう考えた。そんな考えを、ぐずぐずと何度もひっぱりだす自分に呆れロウは苦笑いを浮かべた。  隆俊がリビングに来た時、ロウは窓の外にある星空を眺めていた。右手に水の入ったグラスを持ちリラックスウエアのボトムだけを身に着けている。  首から肩にかけて筋肉が盛り上がり、深い溝が肩甲骨の形を影に映していた。月の光を浴び、髪が白く光っている。男の後ろ姿を綺麗だと思えたのは初めてだ。 「眠れないのか?」 「落ち着かなくて。今日は満月だね。狼に変身するとか?」 「しないさ。見た目はいたって普通の人間だ」  ロウは微笑みながらゆっくり振り向いた。月光を背負ったロウの姿を見て隆俊の息が止まる。 ドクン  強くて重たい鼓動。 ドクン  体温が下がり始める。ロウと初めて視線を交わした時と同じように。隆俊はゴクリと生唾を呑み込んだ。 ドクン  ロウは襲い掛かる臭気に全身を貫かれた。鋭いナイフで抉られるような衝撃を受け目が見開かれる。隆俊の視線がロウを捉え二人の何かが繋がった。  生暖かい血の味が口一杯に広がる。鉄の錆びた味が突然甘く変わった。そして再び鮮烈なイメージがロウを支配した。おびただしい血液とぬらぬらと光る内臓が目の前にあるかのように。もうそのことしか考えられなくなる。 「近寄るな。部屋に戻れ」  荒い呼吸を繰り返し、絞り出した声はかすれている。隆俊はロウに一歩近づいた。 「駄目だ!近寄るな!」  ロウの声は隆俊に聞こえていたが意味をなさないただの音だった。内なる声が隆俊を支配している。「特別な男を手に入れろ」囁きは何度も繰り返され、一歩また一歩ロウに近づく。あともう少し、もう少しで届く。 「駄目だ!触ってはいけない!」  動きを止めたい一心でロウは隆俊の手首を握った。その瞬間ロウの心臓は重く激しい鼓動を響かせる。触れた皮膚を通して互いの血がめぐっているかのような感覚。 「もっと……もっと」  ロウに掴まれた手首は熱を帯び、ドクドクと脈打っている。手首では足りない。下がった体温を上げてほしい、身体すべてに熱を(とも)してほしい。  ロウの手からグラスが落ち、砕け散った。その音を助けに理性をつなぎ留め、隆俊を押す――これ以上二人の距離が縮まらないように。しかしこれは逆効果だった。触れた肩を通して隆俊の血脈を感じる。抗うことのできない本能的な欲がロウの理性を破壊した。  噛みつくようなキスで口を塞いだ時、ロウの身体から青い炎がたちのぼった。

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