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Saturday
寝起きで意識が覚醒してらず、鉛のような倦怠感で動けない隆俊をロウは風呂に入れた。隆俊を軽々と持ち上げ身体を洗い、残滓を掻き出す。指一本動かすのも億劫だった隆俊はロウの好きにさせた。清潔な衣類を着せソファに横たえると、ロウは浴室に戻った。
ボンヤリした頭ではあまり考えられないが、ロウとのセックスはセックスではなかった。うまく説明できないのがもどかしい。行為は同じだが中身がまるで違う。ヒートでもないのに制御できなかった。聞こえてくる「特別の男」「特別の男を手に入れろ」の意味もわからない。これで手に入ったことになるのか疑問だ。それに「君」と呼ばれる程度でお互いのことを何もしらない。
「大丈夫か?無理をさせた」
「ちょっと怠いだけ」
ロウに見詰められて恥ずかしくなった隆俊は視線を外した。ロウは床に座り隆俊に手を重ねた。
「恋愛感情があるとは言えない。でも君のことは気になる」
「俺も同じ。興味はあるけど好きかと聞かれてもわからない。だって何も知らないし」
「そうだな」
「でも……」
「でも?」
「正気でいられない何かがあった。あれは何?俺は経験したことがない」
「私も同じだ。普段はコントロールできるのに抵抗できなかった」
「声が聞こえたんだ」
「声?」
「特別な男だって。特別の男を手に入れろって。それを聞いてわけがわからなくなった」
ロウは何かを考えるように俯いたあと隆俊に視線を合わせた。突然ロウの表情が変わり眉が顰められる。隆俊の頬に右手を乗せ親指で目頭の下をそっと引っ張た。
「え?何?」
「こんな色ではなかったはずだ」
ロウはテーブルの下に設えた引き出しから鏡を取り出した。
「目を見てくれないか?」
鏡を受け取り言われた通りに目を映す。最初はわからなかったが見つけて驚いた。
「なんで!色が違う!」
黒い瞳孔とダークブラウンの瞳。その瞳の淵に細くではあるがアイスブルーのラインができている。
「瞳の淵は黒だけだったのに」
「こんな色はなかった」
「……どうしてだろう。痛みやかゆみはないし違和感もない」
ロウは腕を組み考え事をしたあと立ち上がった。
「電話をかける。少し時間がかかるかもしれない」
隆俊はどこにかけるのか聞かなかった。それよりも自分の目を観察することに気を取られ一心不乱に自分の目を見続けた。
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