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第2話
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「ジョアン、始めるよ。拳を握って。」
針先が血管を求めて沈んでゆく。肉に刺さってゆく感覚は不快だが、布越しに腕を掴まれている方が嫌だ。
極度の接触嫌悪、集中力が続かない、感情が大きく振れたり、全く動かなかったり。そんなことももしかしたらもう終わりになるのかもしれない。死、または心の喪失という甘い闇に沈み込むことで。
そんなことを考えているジョアンの目の前にはダンがいた。安心させようと微笑んでいるくせに緊張を隠せていないところが彼らしいと思う。
番解消の薬が働くか否か。どんなに分が悪くても、ジョアンにはこの薬に賭けたかった。ダンに触れるために、ダンに触れられるために。
透明な液体に赤い花が咲いたのを確認すると、薬がゆっくりと体内に注がれる。間をおいて、心臓がドクンと激しく脈打ち身体が反応したのが分かる。気持ちの悪い膜が意識を包んでゆき、目は見えているのに何も認識できなくなる。
また身体の変化が始まる。組み上がったものを破壊する無慈悲な混沌の訪れは自ら望んだものだから平気だ。
今度こそ。
それが覚えている最後の記憶だ。後は、混濁する意識の尻尾が頬を撫でて去っていった。
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