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第7話

* 「じゃああれは本当だったのか。」 「俺たちは関係ない世界だから知るよしもないさ。後見人を乗り換えられるほど魅力的なのは結構だけど、番解消治療は、その後番った時の他人への嫌悪反応の亢進やら副作用がありすぎる。最悪精神が破壊されるという話だし、憐れなΩだ。」    ダンを祭りに誘ったのは、森の奥深くに生息する希少な動植物を取り扱っている、友人のオンカ(ジャガー)・セトだった。食材や薬の原料として珍重されるこういった動植物は、獣人が専売で扱う品物の一つだ。  観覧を終えそのまま夜半まで飲んだあとは、外の店なり自分の部屋で仲のいいもの同士が身体を寄せ合う時間だった。  丸い机を囲んで酒を飲む二人の距離は近かった。    セトのしなやかな身体が美しい曲線を描きながら、しどけなく残っていた飲み物を空にする。αの男でありながら、ネコ科独特の色香が漂い、あたりにいる者を酩酊させる。そんな雰囲気に緩んだ理性を預けながら、ダンは気になっていたことを口にした。 「金で買えるものは何でも手に入るんだろうが、幸せそうには見えなかったな。」 「ふうん、どうして?」 「後ろを歩いてたんだ。番なのに隣じゃなくて後ろを歩いてたんだ、あの子。」  ダンの言葉に眉を上げながらセトは頬杖をついて笑った。馬鹿にしているわけじゃない、けれどダンのまっすぐすぎる考えは現実を見ていない。 「相変わらず青いねぇ。あのって言うけど、彼はあんたより年上。既に一度番解消をして主を乗り換えてるんだよ。  人間は残酷なことをする。他の持ち主から奪うように手に入れたって言うけど、惚れこんだって番関係ができてしまえばそんなものだよ。」  ジョアンは初めての発情期が訪れてすぐに特殊後見制度で落札された。その後、取引先で彼を見初めたプリモスが財力にものを言わせて史上最高額で奪い取ったのだ。 「『Ωの権利促進とよりよい生活環境提供のために後見を』、か。空々しいうたい文句だ。」  眉をあげたセトはそんなダンをからかうような表情で見ていた。 「触ることすらできないΩに何の用があるんだ? あの花はあんたのものじゃないし、その匂いをかぐことだってない。」 「そうかな?」 「そうだよ。」  そう言いながらセトはダンの隣に椅子を移動させた。柔らかい手がダンの首筋に触れ、それから肩を撫でた。 「......な、獣人は獣人同士、ってのがお似合いだよ。あんたの体力についていけるのも俺くらいだよ?」  目を細めてお互いの匂いを嗅ぎあいながら、そろそろだろ? と軽く唇を合わせる。  勝ち気な舌が先に唇を割って入り、揶揄うようにすぐに引いてダンの顎から耳に向かって舐め上げていった。  α同士、獣人同士、夜を通して遠慮のない交わりを始めようと誘ってくる。  身体はすでに反応しているし、準備はできている。なのに、いつもなら楽しめる気の置けない相手との時間も、砂にまみれた背中がちらついて今夜はどこかのめりこむことができなかった。

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