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第23話

 薬を手に入れるのは容易(たやす)いことではなかった。そもそも高額な薬だったし、そんなものを買ってまできちんと番を解消すること自体少ない。なにより流通量も多くないため人間の町ですら入手困難だった。  そんな状況で仕事の繋がりを駆使して調達してくれたのはセトだった。  治療を開始するタイミングに合わせて届けられた小瓶を数えながら、ジョアンは「ダンに急用ができて注射できなくなったら自分でやればいいのかな。」と独り言ちた。 「馬鹿、様子がおかしくなったらすぐに呼ぶんだよ。何もできないけど見届けてやるから。」 「ふふ、この薬は効いたらおかしくなるに決まってる。お前を呼ぶことがあるなら、効かなかった時だよ。」  どこまで本気か分からない二人の会話を聴きながらダンはジョアンをじっとみていた。そんなダンに気付いたセトが手元のお茶を飲み干して姿勢を正して口を開く。 「なぁ、あんたがちゃんと言葉を理解できるうちに言っておくけど、」 「なんだ?」  やけに神妙なセトの口調にダンも顔を上げた。ジョアンを見るセトは、寂しげな慈しみに満ちていた。 「その減らず口も一緒に治す薬を混ぜとけばよかった。次会う時もまたそんな生意気なセリフ聞かされるって想像しただけで腹がたつ。」  ダンやセトとこうして話すことができるのも最後になるかもしれない。起こりうる最悪の状況を考えろと促されていることに気付いたジョアンは、分かってると言う代わりに唇の片端を上げて笑った。 「発情期の猫よりましな歌も聞かせてやるから、治療が終わったら見舞いに来いよ。」  セトが首を傾げて微笑んだ。 「あんたみたいなΩはそもそも人間の町じゃ暮らすのは無理だったんだろうな。ここでダンといるのが丁度いいのかもしれない。」  それだけ伝えてセトはあっさりと帰っていった。  死ぬかもしれない、心が壊れるかもしれない。でもジョアンが自分で決めたことだ。だからそれはセトなりの精一杯の応援の言葉だった。

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