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第28話
ダンはジョアンの髪に指を埋め、頭を押さえ込んで耳朶を食み、耳孔に舌を捻じ込んでお互いの興奮をあおり立ててゆく。身体に注ぎ込まれる息遣いは部屋の中から全ての音を消し去って、二人は獣のように床の上でお互いを感じていた。熱い波のようなダンの愛撫に身を預けているジョアンの吐く息に魂が戻ってくる。
治療中着替えさせやすいようにと着せられていた上下の繋がった簡素な服も、気がつくと熟れた果実の皮のようにするりと剥かれていた。
口づけを交わしながら試すような視線で見上げてくるジョアンの身体をダンは舐めるようにまさぐっていった。五日間ほぼ飲まず食わずでいたせいで肉の削げた身体は悲しく、愛しい。
ほっそりとした腕が、通り過ぎようとする旅人の手足を絡めとる蔦のように伸びてダンの背中に巻き付いた。身体を引き寄せる掌は盛り上がる筋肉を愛おしみその力強さにうっとりとしていた。ダンの服の下に手を滑りこませ、覆いかぶさる身体から服を脱がそうとすると、ダンは離れるのがもどかしいとでも言いたげな表情で身を起こして一息に全てを脱いだ。
直接触れる肌の感触に、全ての感覚が一気に花開いて身体のうちに香りが満ちてゆく。
震えながら肩を掴むジョアンの手を取り、その指先にダンは唇を押し当てた。喉を鳴らして唇を開き指の付け根まで舌を這わせてゆく。手のひら中に何度も口付けているとジョアンの体温が上がってゆく。
「ふ……、はぁ……」
掌から身体の中心に向けて走る不規則なさざ波の裏側に官能が見え隠れする。混ざり合う情欲と快感にジョアンの口から甘い息が漏れた。発情期でもないのに頭が煮えたぎるように熱い。早くこの熱を交わし合いたい。
今度はジョアンがダンの無骨な指先に唇を当てた。一本ずつ指先に向かって舐め上げる。唾液に濡れた人差し指と中指を口の中にゆっくりと入れ、舌を絡めながら乳を求める赤子のように吸い付いた。めくれ上がった唇の間に挟まれて指が出入りする光景はひどく卑猥だった。
堪能するジョアンを見ているうちにダンもたまらなくなり、ジョアンの手首を掴んで指を抜いた。驚いているジョアンに噛みつくように唇を貪った。皮膚よりも柔らかい舌同士が寄り添い、逃げる振りをしながら縺れて戯れる。唇を離しても気持ちは絡み合ったままだ。
「ずっと、こうしたかった。果物よりもお前の味を知りたかった。」
「指の味をか?」
「馬鹿。」
「ジョアン……発情期まで待てない。お前の中に入りたい。」
鼻腔から体の奥に沁みとおる若々しい獰猛なαの匂いがぷつぷつと気持ちを沸き立たせている。ジョアンは目を開き、眉尻を下げて微笑んだ。
「最初からそのつもりだよ、でも貪欲なお前を満足させられるかな。」
「負担はかけないつもりだが、そんな表情で見つめられると、自信ない……」
発情期前のジョアンの後孔は雄々しく勃ち上がったダンの熱をすぐに受け入れることはできなかった。ダンは請い焦らすように双丘の窪みに舌を這わせ、窄まりをほぐしてゆく。せめて水浴びを、と恥じらう身体を離さなかった。湯を張った大きな桶に脚のふらつくジョアンを抱えて入り、念入りに洗った。
幾重にも重ねられた薄い花びらを愛しむような繊細な手つきと指使いで施される愛撫は、久しぶりの感覚に戸惑って行き先を迷う身体を導くのに十分だった。
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