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第4話
低血圧にとって朝は天敵である。ジリリリと頭上で鳴り響く目覚まし時計をガン、と一発殴って止めると、俺はまた布団にいそいそともぐりこんだ。もう少ししたら平江が起こしに来るのだろう。それまでは…。
「三保さん、朝ですよ」
トントン、と扉が叩かれて俺の返事がないとわかると何の躊躇いもなくガチャリと開かれる。ツカツカとこちらに寄ってきた平江は、何の躊躇いもなく俺の布団引っぺがした。
「朝、ですよ」
怒りを孕んだ彼の声は、寝起きの俺の頭に響く。あぁ、これは昨日のことをまだ根に持っているのだな。
「さむい…」
手を伸ばして剥がされた布団を取り返そうとするが、平江にだめですとすげなくかわされてしまった。
「朝ごはんもできてます。早く顔を洗ってきてください」
今度はぐいっと腕を引っ張って無理やり起こされる。俺は半目で平江を睨んだ。が、彼はそんな俺の視線を見もせずにペチペチと腰を叩くので、んんと唸りながらやっと俺はベッドから足を出して、ヨロヨロと立ち上がる。
「起きる起きる、起きるってば…」
ストンストンとパジャマを脱いで、椅子に掛けっぱなしの制服を身に着ける。ゴシゴシと目を擦って、大きなあくびを一つすると俺のあくびが移ったのか平江も隣で大きなあくびをした。
廊下はもう春だというのにひんやりしていて、歩くだけで頭が冴えてくる。俺の脱ぎ捨てたパジャマを手に持ちながら、平江は俺を洗面所へと連れて行った。冷たい水をバシャバシャと顔にかけて、クゥ~ってなる歯磨き粉でゴシゴシ歯を磨く。そうしてすっかり目が覚めた俺は、かけ間違えていたシャツのボタンを直してリビングに向かう。いつもの定位置に座ると、コトンと目の前にハンバーグが置かれた。
「あっ、ハンバーグ」
「朝からよくそんなの食べられますよね」
「ハンバーグは文明の利器だろっ」
いただきます、とちゃんと手を合わせて俺はすぐハンバーグにかぶりついた。零れる肉汁が口を伝って制服に垂れそうになったのを平江がもう、と文句を言いながらも拭いてくれる。朝ごはんにハンバーグが食べたいというリクエストをしたのは随分昔のことだったが、俺の機嫌が爆上げされるので不機嫌な次の日にはハンバーグが朝食に出るようになった。
「静江様は今日からフランスに行かれるようです。史郎様は出張で長崎に…」
朝ごはんを食べていると、毎回必ず平江は両親の予定を簡潔に伝えてくれるのだが俺はこの時間があまり好きではない。
「ふぅん、じゃぁ今日は誰もいないんだ」
「はい、私は三保さん付きなのでもちろんいますが、他の者は静江様と史郎様について行かれるようですよ」
フランスに、ねぇ。だからあんな熱心に爪を弄っていたのか。
母親は去年から外国への旅行が増えたように思える。父親も特にそれについてとやかく言っている訳でもないので、というか気づいているのかすらもわからないが。
大きなハンバーグを二つペロリと平らげて、味噌汁も喉に流し込む。ごちそうさま、と箸を置いてそろそろ家を出るかぁと八時前を告げる時計を見つめていると突然インターフォンの音が鳴った。
「…誰?」
「こんな時間に珍しいですね。少し見てきますので、三保さんは用意を済ませておいてください」
平江がそう言ってリビングから早足で出て行く。気になったので、リビングにある大きな窓から玄関を覗き込んでみると見知らぬ男が立っているのが見えた。同じ高校の制服を着ているが、昨日はほぼ保健室にいたので友達というものを一人も作っていない。それに、あまり彼の顔に全く見覚えがない。ん?と首を傾げつつ俺は冷蔵庫に入っていたお弁当をカバンに突っ込んで上着を羽織った。
「えっと、お友達が来ていますよ」
数分後、リビングがガチャリと開かれて顔を出したのは平江と、やはり見覚えのない男。
「…誰?」
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