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第6話

「ちゃんと説明してくれる?」  今度は俺が亜久津の腕をぎゅっと掴んで離さない。まるで連行される犯罪者のように項垂れる亜久津に、クラスの男子がドンマイドンマイと声掛けをしている。不本意なことに亜久津の席は俺の一個前らしく、俺はこれから授業中ずっとこのイライラを視界に収めながら過ごすということだ。ミルクティーの目立つ髪色の亜久津はあちゃぁ、と顔を歪めている。 「そんなに怒ることなくね?」  肩をすくめてそんなことを言うので、俺はまた腹が立ってガンと机を叩いてやった。こいつ、全然反省してねぇじゃねぇか。 「ミホちゃんってこぇえのな」 「いや、でもミホちゃん結構美形だし先生もミスったんじゃね?」  クラスのどこかしらから飛んでくる“ミホちゃん”という名前に俺はぴくりと眉を上げて「ミホちゃんじゃない!!」と声を張り上げた。 「うわ、ミホちゃん怒った」  あぁもう、一体どういうことなんだよ。早く教えろよ、とまた亜久津に向き直る。 「ま、まぁ落ち着いて…」 「俺は落ち着いてるから。で?なにがどうなって眠り姫なんだよ、教えてほしいなぁ」  亜久津も予想外なのか俺の怒り具合にヒッと慄いた。ジリジリと詰め寄れば、目を合わせようとしない亜久津に苛立ってまたガンと机を叩こうとしたときだ。 「今の内に謝ったほうがいいんじゃないか」  次は誰だよ、と顔を上げると入学式で俺の隣に立っていた、黒髪で身長の高い男が教卓前にいた。昨日は貧血でちゃんと顔を確認できていなかったが、よくみるとかなりのイケメンだ。女子がわぁと歓声をあげている。 「あっ、冬馬!助けて~~っ」  ぴゅ~と一目散に亜久津が冬馬と呼ばれる男の後ろに隠れる。それにも苛立って、思わずこぶしを上げた。 「あんなに怒らせるなんてお前何したんだよ」  怒りに震える俺を冬馬が見て言った。冬馬の後ろに隠れているせいで亜久津の表情が見えないが、小さくつぶやかれた声を俺は逃さない。 「…あれがミホちゃんだから」 「ミホちゃんって昨日蓮が言ってた子?」 「そうだよ!!俺が昨日保健室行ったら、ミホちゃん保険医の横井センセーにキ、キスされてたんだからなっ!!!」  亜久津がそう言った瞬間、俺に集まるクラス中の視線。男子の中では知ってた人もいるようで、保健室でキスされたミホちゃん、って聞くと女って思うだろ?と不本意そうにつぶやいている。女子は女子で、あの横井センセーとキス!?と赤面しているし、俺はというと状況が全く掴めずただただ口を開いたまま固まっていた。

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