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第9話

「プリンセスだけはやめて…」 「じゃぁ姫?」 「もっとやだ!!」 「えぇ、可愛いのに」 「大体アンタのせいだ…変な噂がたったのは」 恨みを込めて横井の脇腹をゲシゲシ蹴っていると、足首をがっちり掴まれたそのままカパァと開かれた。 「わっ、ちょっ」 「足癖の悪い子にはお仕置きだよ」 そのまま力を込められて、幼い頃両親の強い勧めでバレエを習っていたお陰か抵抗なくスルスルと開かれている股関節に横井も驚きを隠せないようだ。 「ど、どこまで開くの…!?」 ついに百八十度ぴったりまで開脚して、股の間からあんぐり口を開いた横井が見えた。 「小さい頃バレエやってたから」 「ボールのやつ?」 「それはバレー。俺がやってたのはバレエ」 「あぁ、クルクル回る方のやつだね」 横井が隣でバレエのような仕草をやってみせるが、ギクシャクしていて華麗さは全くない。下手くそだなぁ、と笑うと横井は照れたように頰をかいた。頬をかくのは彼のくせらしい。 「…バレエやってたんだ。意外かも」 「母親が、まぁ、無理やり」  有名なバレエ団に所属していた母親は、どうせなら女の子を産みたかったとよく零していた。それも、母親は俺を妊娠したせいで止む無く退団することになったらしいのだ。幼い頃の俺は、母親から「あなたは私の血を引いているから、上手にならない訳ないわ」と教え込まれてバレエを毎日練習していたが、思った成績も残せず数年で辞めてしまった。バレエを辞めてから余計に母親との仲もギクシャクしたように思う。 「習い事かぁ…、昔そろばんやってたけどそろばんの玉?五珠の部分を取って遊んでたら怒られて辞めちゃったなぁ」 「…何やってんの」 「いやぁ、だって取れると思わないでしょ?」  横井がそう言って、またデスクの引き出しからマグカップを二つ取り出した。 「また飲むの?」 「いっぱい話したら喉乾いちゃったよ。鹿山くんも飲むでしょ?」  今度はミルクティーではなくて、抹茶オレの粉末がマグカップに入れられる。頷く前に粉末をいれられてしまったので、今回も無理やり飲ませられたってことにしておこう。  シュー、とケトルから湯気が立ち始めてすぐにぶくぶくと沸騰した音がした。水とお湯を混ぜて作られた抹茶オレを「はいどうぞ」と横井に渡される。すぐに飲んだらまるで俺が飲みたかったみたいになってしまうので、マグカップを持ったまま少し我慢した。 「おいしいよ?」 隣を見れば、ゴクゴクと抹茶オレを飲み進める横井がいて、数十秒の我慢に成功した俺も誘惑に負けてマグカップへと口をつけるのだ。 「…おいしい」 自然に口から出た感想は横井をかなり喜ばせたらしい。満面の笑みで「そうかそうか〜」と言いながら俺の頭をバフバフ撫でる。雑な撫で方は髪の毛をボサボサにしたが、ほんのちょっと心地よかったので文句は言わなかった。

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