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第11話

こくりと頷くと、横井はうーんとしばし逡巡してからゆっくりと口を開いた。 「明日も明後日も、毎日保健室に来てくれたら教えてあげるよ」 「えっ…なんで」 「なんでって…、顔が見たいから?」 かお?かおって、顔のことか?わけがわからないという表情をしていたらぷっと横井が吹き出した。 「すっごい顔してるよ」 白衣のポケットから瞬時に携帯を取り出した横井がパシャりと勝手に俺のことを撮ったので、「盗撮だ!」と喚いて彼の携帯に手を伸ばすがひょいとかわされてしまう。むくれた顔をしているとまたパシャりと写真を撮られた。 俺に携帯を取られないように少し離れたところから撮った写真を確認しているらしい横井があっはっはと笑い声をあげている。そんなに変な顔してたかな、って確認しようと保健室の鏡の前に立つがただ不機嫌そうに眉をしかめる自分の顔が映った。…全然面白くないし。 「あーっ、久しぶりに笑ったや。その顔しない方がいいよ、モテないから」 手元の携帯をチラチラみながらまたぶふ、と笑う横井が近づいてきてさらりと俺の額を撫でる。思わぬスキンシップに、キス問題が頭によぎってびくっと過剰反応してしまった。 「…も、モテても意味ないし」 まぁ、女には。取り繕ってそう答えると横井はふぅんとあまり興味なさげにつぶやいた。苛立ったけどまた無愛想な顔をすればパシャりと音が聞こえてくる気がして真顔になるよう努める。 「ミホちゃん〜!!!」 突然保健室の扉ガラリと開かれて亜久津が顔を出す。カーテンの隙間から見える亜久津の顔に、俺はやべぇと隠れるようにベッドの陰に潜んだ。 「あれ?ここじゃねぇの?」 「蓮!廊下走ったらまた先生に怒られるぞ」 冬馬の声も近づいてくる。飄々としながらベッドに腰掛けたまんまの横井と目が合って、下手くそなウィンクを投げられた。いらない。 「横井先生、ミホちゃん知らない?」 ザザザと音を立ててカーテンが開かれる。最大限体を縮こませて、二人に気づかれないようにするが帰る気配がない。っていうかミホちゃん呼びはいい加減やめてほしい。 コソコソと何やら話す声が聞こえるが、何を話しているのかはわからない。もどかしくなって様子を伺おうとひょっこり顔を出すと、したり顔の亜久津と目が合った。 「あっ、見っけ!」 「ゲッ」 すぐに何か言われる前に保健室から出ようとして、冬馬にがっちり腕を掴まれた。離して、と抵抗して足を踏んでやるが顔色は全く変わらない。悔しいので、冬馬の脇腹をくすぐってやるとさっきの力が嘘みたいにふにゃんと抜けて、冬馬のクールな顔が一瞬崩れた。くすぐりが弱いなんて意外、と俺も拍子抜けしたがすぐさま離せ離せともがくと冬馬の手がパッと離れる。 「…やめろ」 俺のことを警戒しているのか、一歩後ずさった冬馬に睨まれた。睨みたいのはこっちだっつーの。でもチャンスだ、今のうちに逃げれば…っ。 「はい、キャーッチ」 一目散に保健室の扉に手をかけようと伸ばした俺の肩を難なく掴んだ横井が、そのまま俺を抱きしめる。突然の抱擁に目を丸くしているとまた頭上から笑い声が聞こえた。 「走ったら危ないですよ、プリンセス」 そしてまた聞こえてくるパシャりという音に、俺はもう脱力するしかなくて、「やっぱりウワサは本当だったんだ!!」と亜久津が叫んだのにも反応できなかった。

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