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第14話

「三保ちゃんっ!!大丈夫か!?」  バァン、と扉を乱暴に開けて亜久津が息を切らしながらやってくる。せめて答えを聞かせろよって横井の方を見ても、彼は人差し指を口に当ててまたへたくそなウィンクを投げてくるのだった。 「俺は、平気…」 「顔色悪いぞ、でも」  どうやら授業が終わってすぐに様子を見に来てくれたらしい。俺が初日貧血で倒れた時も、様子を見に来てくれたというのだから亜久津はきっと根は言いやつなのだろう。タイミングがことごとく悪いが。 「久しぶりに運動したから体がびっくりしただけだよ」 「そうか?俺、担任に言っておくよ。…あと、言いにくいんだけどさ…」  もごもごと亜久津が言い淀むので、俺はすぐになんだよと亜久津の腕を突く。 「いやぁ、まぁ、俺が囃し立てたんだけど…」 「は?なに?」  それでもまだ口をもごもごとさせているので、ぐいぐいと亜久津の腕を引っ張ると観念したかのように窓の方を指さした。 「うわ、なにあれ」  保健室の裏口はすぐ運動場に繋がっている。裏口の隣の窓に群がるのは、二組のクラスメイトたち。 「こんな大事になるとは思わなくて…」  よく見れば、窓からこちらを覗いているのは二組だけじゃない。顔も知らない生徒が数十人集まっていて、俺は体を硬直させた。 「は…どういうこと」 「でも絶対あれは横井先生が悪いだろ!!!!!」  亜久津がソファでくつろぐ横井先生の肩をグラグラ掴んで揺すぶっている。 「俺のせいじゃないでしょ、だってお姫様がねぇ…」  意味ありげな視線を送られて、訳も分からない俺はただ首を傾げるしかない。っていうか、プリンセスの次はお姫様か! 「ねぇ、ちゃんと説明して、亜久津…。今度は何が」 「だ、だだだって、ミホちゃんのことプリンセスって呼んでるし、お姫様抱っこしてるし、萩 先生が俺が連れて行きますよって言ったのを、横井先生が彼は俺のなのでって…」  待って、全然理解できない。 「それを聞いた女子たちが、ミホちゃんと横井先生ってそういうカンケイなの!?ってなって…あんな感じに」  確かに、心なしか集まっている人たちの中で女子の比率が高い気がする。俺は、あぁぁぁと頭を掻いて大きなため息をついた。何がどうやって高校三日目でホモってバレるんだよ。  もう否定する気すら起きないんだけど。 「…え、横井先生と付き合ってたりすんの?」  内海と同じこと聞いてくんなよ、と睨みを聞かせながら「んなわけない」と言えば亜久津は安心したようにため息をついた。 「だよなぁ…本当に付き合ってたらどうしようかと思ったわ」  どうしようかと思った、かぁ。何気ない一言で傷つくほど俺の心はヤワじゃないと思っていたが、案外キツイ。それに、変なウワサを聞いても尚ソファでくつろぐ横井の気持ちが理解できない。普通、男子生徒と付き合ってるなんてウワサがたったら全力で否定するもんだろうに。俺とキスをしたかの疑惑もかかっているのだ、もしかしたら俺と同じ種類の人間なんじゃないかって思ってしまう。 「ありえないよ…」 「とりあえず、付き合ってないって弁明はしておくなっ!…ってあっ!!!!」  今度はなんだ、と亜久津を見ると何やらベッドサイドを指差している。 「ミルクティー飲んでたのか!?ずりぃ!!!!!」  まだ飲み終わっていないミルクティーの入ったマグカップを覗き来んで亜久津が叫んだ。  もう保健室でミルクティーを内緒で生徒に提供してることがバレてクビになってまえ。

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