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第15話
亜久津の危惧した通り、俺と横井のウワサは瞬く間に学校中へと広がった。例のホモじゃん、と指を指される毎日に俺は少しずつ疲弊させていく。
二組のみんなにいじられるよりも何倍もキツい。彼らはホモだホモだと楽しそうに笑っているが、二組のやつらと違って俺と一緒に笑っているわけじゃない。彼らは彼らの中だけで笑っているのだ。
ウワサを聞くたびに亜久津が悲しそうな顔で俺に謝る。それから般若の顔に戻って「鹿山はホモじゃない!!」と否定をしてくれる。
見知らぬ人に有る事無い事言われて傷ついた俺の心は貧血という形で学校生活に支障をきたした。朝から体調が悪いと保健室にこもりがちになって、余計にウワサが広まっていく。悪循環だ。
それでも保健室の扉は頑丈で、中にいるときはウワサのことなんてこれっぽっちも気にならない。横井は変わらない様子でミルクティーをくれるし、優しく俺の頭を撫でる。彼の優しさにつけこんで、甘えて…。
「三保、あなた学校で酷いウワサになっているそうじゃない」
だから、こんなことになるんだ。
「…ただのウワサだよ」
フランスから帰ってきてから母はずっと不機嫌だ。何があったのか知らないが、彼女は機嫌が悪いとすぐ周りに当たり散らす。執事たちは毎日そんな母のご機嫌伺いをずっとしているものだから、毎日コソコソウワサをされる俺よりも心の狭い日常を送っているのかもしれない。
ガン、と母は持っていたコップを乱雑にテーブルへ置いた。反動で溢れた紅茶が彼女の服の袖を濡らす。あーあ、この間ご機嫌で買ってきたシルクのシャツにシミがついている。あとでちゃんと洗いなさいよ!と怒鳴られるであろう執事に憐れみの視線を送った。
「昔言ってたふざけた話、本当じゃないでしょうね」
覚えてたんだ、と俺は目を瞬かせた。咄嗟のことですぐに否定も出来ず、何も言わない俺を母はじっと睨む。
「…三保」
「え、あぁ、うん。…違うよ」
自分で自分を否定するというのはこんなにも空しいなんて。
「鹿山家を失墜させないで」
それだけ言って母は自室へ向かって言った。後ろで待機していた平江が心配そうにこちらを見つめる。
「俺は平気だよ」
別に知っていた。俺が普通の人間じゃなくて、ゲイであることはふざけた話だってことくらい。
「三保さん、今日の学校は…」
「行くよ」
廊下に置いていた鞄を持って玄関へ向かう。中学の時、母と揉めてよく学校を休んでいたので今日も休むと思っていたらしい平江が「え?」と驚いた顔を見せた。それに、サッカー部の朝練もないだろうし亜久津が待っているはずだ。
行ってきます、と言う気力もなくて無言で扉を開く。
「待ってください」
「…なに」
平江にブレザーの裾を掴まれて、俺は振り返った。
「私はずっと三保さんの味方ですから…」
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