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第18話

「三組次内科検診な~」  数学の時間に二組の生徒がそう伝えてくれたので、早めに数学を切り上げて検診を受けるためゾロゾロと保健室へ向かう。 「結局宿題チェックまで到達しなかったね」  犀賀先生はいつも宿題を授業の最後にチェックしているので、内科検診もあってかチェックまでは至らなかった。きっと宿題チェックを最後に回しているのは、授業中にせめて終わらせろよという先生からの暗黙のメッセージなのだろう。  保健室は人が満帆に詰まっていて、ガヤガヤと賑やかだ。しかも運動場でちょうど体育の授業もしているらしく、掛け声も合わさって賑やかを通り越して少しうるさい。横井も忙しそうに行ったり来たりしていたが、俺と目が合うと疲れた顔から一変、さわやかな笑顔に早変わりする。 「ほら、横井先生こっち見てるよ」  チョイチョイ、と俺の脇腹を突く内海になんだよと突き返した。悪戯っぽく笑う内海が脇の方を突っついてくるので、俺もお返しにと内海の脇を突っついてやる。 「二人とも何やってんだよ、ほらもう並ぶから」  珍しく蓮に注意されて、内海と二人苦笑しながら名簿の順に並んでいく。すぐ検診ができるようにシャツをズボンから出してね、という横井の指示に従って俺たちはズボンからシャツを引き抜いた。 「亜久津蓮さん~」   順番に名前が呼ばれて、呼ばれた人たちは保健室の奥へと消えて行く。手を振りながらカーテンの向こうに消えて行く亜久津を見つめた。 「鹿山三保さん~」  内海の次に呼ばれて、保健室の奥へと行くと随分年を取ったお爺ちゃんの内科医とにっこにこでご機嫌な様子の横井がいた。 「鹿山さん、で合ってますか?」  診察用の椅子に腰かけると、内科医がボソボソとそう聞くので俺は「はい」と頷く。気づけばすぐ後ろに横井が立っていて、聴診器を当てやすくするためなのだろうが、突然ガバっと俺のシャツをまくり上げた。 「うあっ」 「静かにしててね」  耳元でそう囁かれて、また俺は声をあげそうになって必死に口を手で押さえた。   何も言わずにまくり上げるあんたが悪いだろ、と心の中で毒を吐きながら俺はフーフーと深呼吸をして心臓を落ち着かせる。聴診器を当てられている今、心臓のバクバク音なんて筒抜けだ。 「緊張してる?心臓の音すごいよ」 「う…うるさい」  前の検診が終り、次は後ろを向かせられてまたガバっとシャツをまくり上げられる。必然的に横井に抱き締められるみたいな恰好になって、いつもの柑橘の香水が鼻を掠めた。今日はたばこの匂いがしない。  ぺと、ぺと、と冷たい聴診器が背中の上へ下へと動き回る。もぞ、っと顔を動かすと横井の胸板が顔面に押し付けられた。ドクンドクン、と今度は横井の心臓の音が聞こえた。心なしか、少し早い気がした。 「はい、ありがとう」  やっと聴診器が離れていって、シャツが下ろされる。ふぅ、と息を吐いて横井の胸板から顔をあげると頬をぽうっと赤らめる横井が俺の真上にいた。 「えっ」 「じゃぁ次相良冬馬さん~」  赤面を隠すように、俺から顔を背けた横井が次の名簿である冬馬の名前を呼んだ。 「ちょっ…」 「また、あとでね」  ぼそり、とつぶやかれた言葉を俺は見逃さなかった。

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