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第13話

比呂は真面目だ。いやこれは全校生徒の周知の事実だろう。しかしながら、彼には意外な一面いや、一面どころではないが意外な点が多すぎる。 まず、最初にあげるとすれば、結構天然なところだ。 いや、仕事はできる。副会長の仕事のみならず、全体の仕事を把握し自分の仕事をさっさと終え、ヒイヒイ言ってる会計や庶務を手伝ったりするし、会長が疲れた顔をすればコーヒーをだしたりもする。 出来た人間だ。 だが、例えば……………ほら今の状況だって鬼の形相で怒る会長と怒られる副会長という絵面。事の発端としては、比呂が会長の話を聞いておらず、怒られている最中にムスッとした顔をしたこと、だろうか。 …………どう見たっておかしいだろう。キャラじゃない。 ーー完璧でなんでもできる王子様、という一般生徒の勝手なイメージは一発でぶっ壊れるだろう。確実に。 更に言うならば、生徒会室に給湯器をつけろ、とワガママを会長に言ったりだとか、比呂が確認した書類にかわいい付箋(ちょっと下手くそな絵が描いてある)が貼ってあったりだとか、なにもないところで躓いて誰も見てないことを確認し胸を撫で下ろす(俺に一部始終を見られている)だとか、天然というかどこか抜けているのだ。 次にあげるとすれば、結構性格が悪い。 例えば、会長がミスをすると結構いじったりしつつ、手伝ったりしているし、会長が居眠りしてたりすると、起きた時に「涎垂れてましたよ」なんて平然と嘘をつく(会長はそれでちょっと焦った顔をする)し、会長が朝、寝癖がついていたりすると、後ろから静かにスマホで隠し撮りを行い、生徒会のライングループにそれを送ってきたりする(その写真に添えられた文面は、「ウケるwwwwww」である。)。 ………彼は結構Sだ。いや、ドSだ。確実に会長を餌だと捉えている。 長くなってしまったので、これを最後にしよう。彼はとても優しいということだ。 完全無欠の完璧主義者、氷の王子様なんて言われているが、噂は噂に過ぎなかった。 上記で述べたとおり、会計や庶務が困っていたら「こんなのも出来ないんですか」なんて言いながら手伝っているのを良く見かける。 それも彼等が根を上げる前に自ら声を掛けるのだ。 更に会長が疲れ切った顔をしているとコーヒーにミルクを入れて渡す。 会長にはブラックのイメージがあるけど、本当はミルクがたっぷり入っている奴の方が好きらしい。 ついでに皆の分も淹れてくれる。 ………自分の分はちゃっかり緑茶を淹れてくるけど。 リクエストとか文句を言うと「自分でやってください」と言いつつ、淹れてくれる。 あとは、俺が極度の人見知りで皆と話せなかった頃、学年も違う中、居づらくて話しづらくて俺が悩んでいた時、比呂はなにも気にせず話しかけてきた。 「これはどうすればいいんでしょうか」って。 ……本当に普通の先輩に話すように。嬉しかった。 俺が「……聞き取り、づらい、ごめん」そう言うと、彼はあのキラキラとした笑顔で「?………先輩の声は、静かで落ち着いていて綺麗なので、聞き取りづらくないですよ」と言ってきた。 …………俺は口説かれたのだろうか。 さて、今期副会長、比呂実槻は随分変わり者で天然でドSだが、彼のお陰で生徒会が仲良くやっている、というのもあるだろう。 俺は先輩としてやれることは少ないが、彼の分の緑茶くらいは用意してあげようと思う。

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