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繋がる心
ぴちゃりぴちゃりと部屋の中に響く水音。ぬちゅぬちゅと腰あたりで聞こえてくるのは、黒鵜様が僕の後孔を解しているからだ。
ふのりを指に纏わりつかせ、指を一本入れるだけでも時間がかかったのに、今はすでに黒鵜様の指が三本も入っている。
まとまって動いていたかと思うとバラバラと動きを変えるたびに僕の背が撓る。
「ぁ……ぁぁ…」
ある部分を押されると僕の腰が面白い位跳ね上がる。意味分からなくて黒鵜様に聞いたら前立腺だと教えてくれた。
その前立腺を何度も指の腹で押したり弾いたりされるたびに、体の中から何かが這い上がってくる。
指をくの字に折り曲げた黒鵜様が執拗にそこを攻める。
「……あぁ……やめ、そ、や……ああ」
なに?
なにかクる
「…あぁ……あ、あ、あ……ああああああッ」
頭を振り乱し、布団を握り締め、体の奥から流れてくる熱に翻弄される。腰から這い上がってきた快感の波。腰から脳天まで突き抜ける強い快感。びりびりと痺れるような快感にガクガクと腰が震え僕の目から涙が零れた。
力の抜けた体で黒鵜様を見上げると、黒鵜様は僕に覆いかぶさったまま目尻を下げて笑っていた。
くちゅくちゅと音が聞こえてきて、びくっとして顔を真下に向ける。
そそり立った黒鵜様の雄は、鈴口から糸を垂らしている。それはまるで猛獣が涎を垂らして食らってくるように見えた。
「朱華、這入 るぞ」
陰茎を上下に緩く扱き僕の後孔に陰茎を宛がう。
ため息の様に吐かれた言葉は僕の心を高ぶらせる。「はやく」とひくつき望む僕の後孔がめりめりと広がっていく。
狭い穴の中に入り込んでくる熱い熱。黒鵜様の陰茎が一部のところで止まっていることに気づいた僕は、力の入ってしまった体をどうにか力を抜こうとした。だけど上手くいかない。
猛る雄は僕のと比べてすごく大きく、これぞ男の中の男、と言う程の大きさだ。
「……くっ」
眉を顰めて唸り声を上げた黒鵜様は痛そうだ。男の弱点と言われてる陰茎を締め付けているのだ。痛いだろう。
もどかしく思っていると黒鵜様が僕の陰茎を握り締めて扱き始めた。快感が背を走り、萎えた僕の陰茎が立ち上がってくる。
声が出るたびに体に広がっていく快感に翻弄されているままになっていると黒鵜様の体と僕の臀部がぴたりとあわさった。
「はい、た?」
「ああ。朱華、少し苦しいだろうが我慢してくれ」
至近距離にある黒鵜様の顔に嬉しさが溢れている。僕も泣きたくなる程嬉しくて笑った。
叶わぬと思っていた恋。他家に嫁に行くのだと諦めていた心に、灯った僕だけの灯火。こんなにも僕を求めてくれる、その事がただただ嬉しい。
「……すき……すきです、こくうさま……」
「俺も好きだ、朱華」
黒鵜様とどこにも隙間が出来ぬように搔き抱く。目の前にある瞳はじわりと潤み僕を見つめていた。
「あいしています、こくうさま」
「俺も……おれも……あいしている」
震える声で呟き、僕の唇に淡い接吻を落とした黒鵜様が動き始めた。
***
「ああああ……ひぁ……こく、う、さ、ま…あ……ひ、あ…」
最初は緩く浅くだった律動は今は激しく打ち付けられている。黒鵜様の陰毛が僕の臀部をくすぐり、それすらも得もいえぬ快感をもたらす。
ぱんぱんと繰り返される音と、妖しい水音。揺さぶられ続ける体は火がついたように熱い。
ポタポタと僕の体に落ちてくる黒鵜様の滝のような汗。その汗すらも愛おしい。
「朱華、朱華」
「あ、あ……こく、う、さま……こくう、さま…あ、あ、あ……あああ……ひっ……あああああああっ」
何度達したのか分からない。僕の体液は色を失い、今は透明な液がてろてろと鈴口が流れるだけ。
薄暗闇の中に見える黒鵜様の顔に僕は手を伸ばした。頬に手を沿え黒鵜様の唇に吸い付くと、微笑み口を開けて答えてくれる。
「ん、ん、ん、は、あっ!」
お互い貪るように舌を絡ませあう。速度の上がった律動に僕の下腹が痙攣を起こしたように震え、何度目か分からぬ波に耐えるように黒鵜様の背中にまわした手に力がこもる。
「こくう、さま……もう、もうっ」
「朱華、すまない。……一緒に」
「あ、あ、ああああああッ!」
「……っく……ん……」
絶叫を上げながら達した僕に合わせるようにぶるりと黒鵜様が体を震わせ、僕の奥に熱い熱をたたき付けた。
朦朧とした瞳で見たのは、泣きそうな顔の黒鵜様。
泣かないで黒鵜様。僕は貴方と結ばれてこんなにも嬉しい。
うっすらと目尻に浮かんだ黒鵜様の涙に手を伸ばすけど、届く前に僕の意識は黒く塗りつぶされていった。
***
『馬鹿者が!』
がちゃんと大きな音で目が覚めた。
『す、すいません』
『朱華は体が弱いんだぞ! 抱き潰してどうする! 加減をせんか!』
『だって、母上、ずっと恋い慕っていたんです』
『だからと言って初めての夜に意識をなくさせる馬鹿がどこにいるのだ! 本当! この馬鹿息子が! お前のように頑丈ではないんだぞ! 朱華はとても繊細なんだ! もし、嫁をやめたいと言われたらどうするつもりだ! この、この、このっ 大馬鹿息子ッ! ……ああ、そうだ。お前をこの家から追い出して朱華だけを息子にすればいいのだ。そうだ、そうしよう』
『母上、そんなぁ……』
どかどかと聞こえてくる足音に僕はくすりと笑う。きょろきょろと辺りを見ると全て黒鵜様が片付けて下さったのか、布団も僕の体も何もかもきれいだ。
『母上、聞いてください。お願いします』
『お前の言い訳は聞きたくない! それより、だ。朱華が起きたら何といわれるか……離縁されるのも覚悟しろ。分かったな? 黒鵜』
『そんな……無体な……』
『無体を働いたのはお前だ! 馬鹿息子!』
すっと開いた襖に気づいて起き上がる。僕の気持ちを風華様に言っておかないと。このまま離縁しかねない。
何より、黒鵜様と離れて生きる事等、無理だ。
「奥方様、僕は黒鵜様と離縁する気はありません。黒鵜様は僕に優しくして下さいましたよ? だから、怒らないでください」
布団に座ったままで悪いと思ったけど、僕は正座してそのまま頭を下げた。
「朱華、いいのか? こんな無骨なやつで。お前だったらもっといい縁談があっただろう?」
「そんなものはありませんよ? 僕は黒鵜様でないと嫌です」
顔を上げた僕を目を見開いてみる風華様と黒鵜様。
「本当に、いいのか?」
「はい。黒鵜様は僕だけのものです。僕以外の人には渡しません」
きっぱりと言いきった僕に風華様が声を上げて笑い始め、黒鵜様の背中をバンバンと叩いている。その隣で心底安心した顔をして胸をなでおろす黒鵜様。
「いい嫁を貰ったな、黒鵜。……朱華、今日は体が辛いだろうからゆっくりと休んでくれ。それから、黒鵜をこき使うが良いよ。旦那と言う生き物は甘やかしてはダメだからな」
にこりと微笑む風華様に僕も微笑んで答える。
「はい。奥方様。有難うございます。でも黒鵜様は今日は任務がありますので……」
「こんなでかいガタイをしてるんだから任務が終わってこき使っても大丈夫だ。な、黒鵜?」
「勿論!」
「……奥方様」
僕の言葉に顔を顰めると風華様が言った。
「朱華、奥方様ではなく、母上と呼んでくれ」
風華様の言葉に僕の胸に暖かい物が広がっていく。二人だけだった家族にいっぱいの人が増えた。
僕の伴侶とそしてその家族。
「我の事も父上と呼べ」
ぶっきら棒な声が風華様の背中から聞こえてきた。ひょいっと顔を出したのは一黒様。
「俺の事も兄上と呼んでくれ」
「僕も名前で呼んで」
ぞくぞくと現れる黒鵜様の家族。
「はい。父上、母上、兄上、黒陽さん」
目を細めて笑った僕の頬に一滴の雫が零れた。
色無しと言われ、町中の人に蔑まれてきた僕に優しく接してくれる家族。何と幸せなのだろう。
父様、僕、幸せになります。
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