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第102話
「朱夏。忘れものない?」
「はい。大丈夫です」
「行こうか」
「はい」
旅館の皆さんにお礼を言って出発した。この温泉街から俺の生まれたところは実は結構近い。
あの日から一度も踏み入れなかった場所が近づくにつれ鼓動が早まってくる
「朱夏。大丈夫だよ。ほら。」
先輩に差し出された手を握る。ゆっくりゆっくり呼吸を整えてそして到着した。
海を見下ろす小高い丘の上。ここに南たちが眠ってる…南たちの場所をご住職に案内してもらった。南が好きだった花を持って。お墓は綺麗にされている。南たちに身内はいないはず…ご住職が手入れしてくれているのだろうか…
「今朝訪ねていらっしゃいました。貴方によく似た女性です。彼女はよくここへ来てお話ししていますよ」
「…母さん…?」
俺によく似ている女性…きっと母さんだ…代わりにお参りしに来てくれていたのだ…俺が行けないことをわかっていたから…
「それと…貴方も」
先輩をみやり微笑むご住職…
「え?」
「…あー…えっと…少し前に…この場所知って来た…お前が抱えているものを知りたくてお前の生まれ育った場所。お前が南くんと一緒に通った場所とか…色々巡ってた…」
「そう…だったんだ…」
「勝手なことしてごめんね。でも…お前のこと…知りたかったんだ…」
「…ありがとう…先輩…。」
2人で手を合わせる。ここに来れるなんて思ってなかった…一人じゃきっとこれなかった…ずっと認めるのから逃げてきっとここには来なかった…南を忘れたくないって言いながら目を背けてた…向かい合おうとしなかった…ごめんね。
先輩がいたからここにこられた。南…大好きだった…お前のことが…助けられなくてごめんね…ずっと逃げててごめんね…南…
胸の中のモヤモヤが少し晴れた。南の死を受け入れられたから…南…見守ってて…俺のこと…俺は…お前のことは忘れない。…お前の分まで…生きるから…だから…また…いつか…どこかで出会おうね…南…
その後先輩は俺が昔住んでいた辺りから南といつも一緒に遊んでた公園や通ってた幼稚園や小学校そして中学校へ連れていってくれた。
どこに行っても南との思い出が沢山詰まってる
「学校入ってみる?」
「え?部外者はダメなんじゃ…」
「許可は貰ったから…」
「いつの間に…」
その問いには答えは帰ってこなかった
先輩に手を引かれるまま一緒に過ごした校内に足を踏み入れた。
玄関から入るとすぐ右手に保健室があってその廊下の端には理科室がある。脇の階段から二階へ上がると左手に職員室が見えてくる。
階段を登りきったとき職員室の扉が開いた
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