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第103話

「白木…」 「先生…」 あの時担任だった錦が出てきた。 「先生…まだこの学校にいたんですね」 「そうそう。お前は相変わらず美人だな」 「何すか?それ」 「…良かった…お前がこうして生きていてくれて…」 「先生…」 「ごめんな…お前が転校していってあれから色々あったんだ…それと…少し待ってて」 待つように言われてもう一度職員室に戻って行った錦。次に来たときは手に何か握ってた 「それ…何?」 「南のお父様がお前に宛てた手紙だ」 「手紙…」 中身はとても短いのだけど思いが沢山つまってた… 『朱夏。俺たちは朱夏のこと自分たちの子供だと思ってる。だから朱夏に幸せになってもらいたい。南の分まで幸せになって。春人より』 「これはお父様が息を引き取る前に書いた手紙だよ。お母様は…即死だったのだけど…お父様は一度意識が戻ってるんだ。俺はその日見舞いに行ってた。その時託されたんだ。お前の所に直ぐに送れば良かったんだけど…こんなに長くかかってしまってすまない…俺も…あの頃余裕がなくて…実は…春人さんは俺の担任だったんだ。高校時代の…俺春人さんのこと本当に尊敬してて…だから亡くなったとき何も手につかなくなって…そうこうしているうちに時がたってしまった…本当にごめん…」 「春人さん…」 春人さんが教師だったことは知ってた。まさか錦の担任だったとは思ってなかったけれど…錦はあの時は新任教師。初めてクラスの担任を任せられていた。あの出来事は新任には荷が重すぎただろう…重くて重くて若い彼には対処のしようがなかったのは容易に想像がつく 「俺ね春人さんのこと…特別な意味で大切だったんだ…だから…死が受け入れられなくてこんなに時間がかかって…俺もやっと最近になって…受け入れられた…だから…進めるから…白木…お前も先に進め。その人と共にな」 先輩を見ながら錦が笑った 「教室行ってみるか?」 「今は授業中でしょ?」 「今移動教室の時間だから誰もいない」 「わかりました」 錦についていくと懐かしい光景。走馬灯のように俺の中を駆け巡る。 窓際の後ろの席。ここが俺の席だった。そして…ここに… 窓枠の所にいたずら書きがある。南が削った後だ… "俺参上!" 「ふふ…」 南はクラスのムードメーカーだった。凄くお調子者だけどとてもよく気のつくやつであいつを嫌う人はいなかった。 「これ…南が書いたんだよ」 先輩に語りかける 「あいつ本当にバカでね…ははっ…もう…本当に…南…」 先輩が流れる涙を拭ってくれる。錦はその光景を側で見守っていた。一頻り泣いて顔をあげる。 「 もうすぐ授業終わりますね。先生ありがとうございました。そろそろ行きますね」 「また遊びに来いよ」 「はい。また是非」 南…またね…

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