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第105話
「そんな顔すんな。」
抱き締めてくれる先輩の腕の中。とても暖かいし確かな思いも伝わってくるのに…
「朱夏。ゆっくりでいいよ。焦るな。俺ももっとお前をゆっくり口説きたいんだよ。だから残りの休みも俺に全部頂戴。」
「嫌なの?」
「嫌じゃねぇよ。でも。今日は疲れてるしもっと、冷静に…」
「冷静だよ」
「朱夏。じゃあさ。後でお前の家に帰ったら話そ?ゆっくり話したいんだ。2人きりの時に」
俺は渋々頷くしかなかった
「おっかえりなさぁい!!さぁさぁ。食べて食べて」
「ありがと。いただきます」
食事中はいつものことだが久米の美味しい料理に夢中になってほぼ無言で食べてた
やっぱりこの味が好きだな。でもこうして作ってもらうことも俺たちの進む道が違えばなくなるのだろう。
でも久米だけを見詰めている飛弦さんを見ていたらそれでいいのだろうと、素直にそう思った
「そう言えば今日お店は?」
「大丈夫ですよ。今日はしーくんが入ってるんです」
「しーくんが?」
「えぇ。だから安心してます。本業が落ち着いたみたいだから手伝いたいって言ってくれて」
「それなら安心だね」
「しーくんね、失恋?してね昔のしーくんに戻ってるよ!髪も元に戻ったし格好も。」
「へー。さぞ綺麗だろうね」
「あぁ!もう浮気はダメだぞ!剣聖さん!」
「しないよ!そもそもあの子バリタチでしょ?」
「いんや。あの子はどちらもいける子だよ」
「そうだったの?」
「基本はタチだけどねその日の気分で変えるみたい」
俺の知らない会話が目の前で繰り広げられてて正直息苦しい…
三人には三人の関係があるのは理解しているのだけれど…先輩を見詰めても久米を見詰めても飛弦さんを見詰めても俺のことは気が付かれていないみたいで…何だか俺の存在なんてないみたいで…妙な不安感が押し寄せてきた。苦しくて苦しくて俯こうとしたとき
「朱夏。ごめんね。わかんない会話だったね…」
気付いたのはやっぱり先輩で。先輩はそっと俺の手を握ると優しく見つめてくれて。それだけで安堵したんだ
「先輩たちの仲の良さは理解してるつもりなので大丈夫ですよ。久しぶりに会ったんでしょ?飛弦さんとは。積もる話もあるでしょ?だから大丈夫。」
「朱夏。」
結局本音は隠して笑い掛ける。いつもならそれでおしまいのはずなんだけど
「朱夏。帰ろっか。長距離の移動で疲れたでしょ。久米ご馳走さま。悪いけど帰るね」
「いいですよ。朱夏さんに会えて良かった。あ。そうだ!朱夏さん待っててね」
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