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第2話
「だからさ、忘れちゃったんだから仕方ないだろ。ついうっかりさ」
「ついうっかりじゃないですよ。で、噛まれなかったんですか?」
「ほれ?首は無事だ」
「まったく……もう少しΩの自覚持ってください。いつか知らないうちにどっかのαに番にされちゃいますよ」
「大丈夫だよ、そこまで俺は馬鹿じゃない」
俺たちが生きるこの世の中には、男女の性の他に第二の性としてα性、β性、Ω性が存在する。
分かりやすく分類すると、
支配階級……身体機能・知能が高くなりやすいエリート体質のαが20%。
中間層……数が一番多いのがβで70%。
下位層……発情期を原因として社会的に冷遇されているΩが10%。
俺はその絶滅危惧種並に貴重なΩだ。
Ωだからといって何かが劣っていると感じたこともなければ自分の容姿も知能もそれなりで、だから社会的地位が低いからと言われようと、別にそんなことはどうでもいい。
どの人種だって捉え方次第では上手く生きられるし、αに憧れはあっても自分がその地位を望んでいるわけじゃない。
Ω特有のヒートだって今は薬で抑制出来るし、妊娠だって……まぁ、そんな日は来ないだろうし、自分が気をつけたらいいだけだ。
そんな、ある意味楽天家の俺をいつものように心配そうに眺める部下の桜庭 が資料を眺めながら再び口を開く。
「刑事だって本当はΩには不利な職業でしょう?なんで刑事になんてなったんですか?」
「お前がβだからそういう考えに至るんだよ。別にΩだから刑事になっちゃいけないとかないだろ?」
「そ、それはそうですけど……」
桜庭はβだからヒートも起きなければ妊娠だってしない。
一番一般的だから刑事になろうと支障はないが、Ωだとそれは自殺行為と言ってもいいかもしれない。
もしも犯人がαだったら、もしもその時にヒートが起きてしまったら、そんなリスクを抱えながらも俺は刑事になった。
それはある事件の真相を突き止める為。
約20年前、学者だった俺の父、雅楽川宗一郎 がある一族によって殺された。
『怪盗BLACKCROW』
黒い鴉と言う名の大怪盗。
その姿は謎に包まれていて、判明していることはその名の通り全てが黒ずくめだと言うこと。
黒いタキシードに黒いマント。
黒い仮面を付けた姿はまさに鴉で、その怪盗が盗む手口は鮮やかで大胆。
希少価値のある宝石だけを狙い、それ以外には目もくれない。
そんな怪盗を研究材料として追っている最中に、親父はその一族の一人に殺されたのだ……恐らく。
恐らく……というのは、真相解明されることなく捜査が打ち切りになったから。
何故なら、打ち切りにせざるを得ないくらいに手掛かりが少なく、当時はこれ以上は無理と判断されて真相は闇に葬られることになってしまった。
だから、その真相を突き止め、奴らを捕まえる為に俺はリスクを冒してまで刑事になった。
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