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第4話
「雅楽川さんは裏口をお願いします」
「分かった。そっちは桜庭たちに任せたぞ」
とある山奥に建つ古城。
そこで行われるパーティー。
表向きは金持ちが集まる単なるパーティーだが、実は高額な品々を不正に売買するオークションが開催目的だと言うウラは取れていた。
だから、上手くいけば鴉たちと一緒に一斉摘発できる。
*
しかし古城とはいえ、そんなに馬鹿デカいわけじゃないんだな……
城の裏庭に位置する辺りをフラフラと歩きながら少し離れた場所からそれを見上げる。
とはいえ、よく海外とかで見る一般的な城をちょっと小さくしたくらいで、普通に考えてこんな城がまだ建っていること自体がびっくりだ。
そんなことを考えていると、突如城とは反対の森の方でガサガサと音が聞こえ、自然と視線がそこに向くと、真っ黒い一羽の鴉が夜の闇に溶けるように飛び立ち消える姿が一瞬だけ確認できた。
まさか……
なんだか胸騒ぎがして急いで室内に入ると特に変わった様子はなく、いかにもセレブパーティーというような非日常的な空間があたかも当たり前のようにそこに存在していた。
大きなシャンデリアを囲むような広い部屋には数百人ものセレブが煌びやかなドレスや燕尾服を見に纏いながら酒を片手に自慢話を繰り広げている。
お気楽なもんだな……まったく。
何事もない現状にホッとしたのも束の間、さっきまでの胸騒ぎが突如全く別物と形を変え、俺を襲ってきた。
「雅楽川さん?大丈夫ですか?」
「あぁ……」
「でも顔、真っ青ですよ?それに冷や汗……」
いつの間にか隣りに来た桜庭が心配そうに声を掛け、そのまま伸びてきたその手を何故か無意識に払ってしまった。
そして次の瞬間、立っていられない程の目眩に襲われ、その場にしゃがみ込んでしまう。
「……ッ……悪い、ちょっと一人にしてくれ」
「でも」
「いいから……ッ!」
なんなんだこれ。
発情期の時のそれとは比べ物にならないくらいの身体の火照りと異常なまでの鼓動の速さ。
自分で制御できない程の異変は初めてて、生まれて初めて自分で自分の身体が怖いと思った。
「もしかして、発情期が……?」
「大丈夫だ、抑制剤はちゃんと持ってきた」
おぼつかない手つきで上着のポケットから錠剤を取り出すと噛み砕くようにそれを唾液と一緒に胃の中へと流し込む。
本来ならこれで治まるはずだけど、今回は正直どうなるか分からなかった。
ハァ……ハァ……と短く呼吸する横で桜庭が心配そうに声を掛けてくる。
だけどその声は霞むように途切れ途切れに聞こえるばかりで、俺の耳には何を言ってるのか分からない。
すると薄れつつある意識の中で、突然場の空気が一変した気配を感じた次の瞬間、視界は一瞬で闇に包まれるように真っ暗になる。
と、同時くらいに桜庭が何かを叫ぶ声と銃声の音が鼓膜の奥へと響いた。
誰だよ……発砲したやつは……
意識が朦朧とする中、一瞬何かが頬を掠めると、俺の名前を呼ぶ声がしたような気が。
だけどそれ以上は何かを見聞きするには限界だった俺は、そのまま意識がどんどんと遠のいて……
俺もしかして死ぬのかな……
なんて、そんな情けないことが脳裏をよぎったのを最後に俺の意識は完全に途絶えた。
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