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第5話

「レナ様、夕食の時間ですよ。いつまでも悩んでいないで、お食べ下さい」 「ミシェル……僕、ミシェルがくれたの無くしちゃった……」 タイピンのことだろうか。 無くしたということは、それだけ気をゆるめることが出来たという事だ。 むしろ、ほっとした。 「大丈夫ですよ。」 「ごめんね……」 困ったように眉を下げるレナ様の頭を撫でると、ほっとしたように私の服の裾を握った。 「あの、ミシェル……僕、ほんとにシャルル様と結婚するの?」 「そうですね。あの規模のパーティーで発言されたことを撤回はなさらないでしょう」 レナ様は、何人目かの側妻としてパイプになるように育てられた。 ただ、側妻と正妻では、必要な能力も責任も全然違う。 これからレナ様は、もっと厳しく勉学に取り組まなければならない。 ただでさえ泣き虫なレナ様が耐えられるのかどうか…… 「……あのね、シャルル様は僕を助けてくれたんだよ」 「それで、レナ様はどうお思いに?」 「かっこよかった」 よかった。 結婚相手に少しでも好意があるのなら。 「……ミシェルは僕がちゃんと結婚したら、褒めてくれる?」 「もちろんです」 「…………お父様も…?」 「…きっと」 そう言いながら、内心それは無いだろうと思ってしまった。 旦那様は妾が産んだレナ様にはなんの興味もないから。 「がんばる。がんばるから……ミシェルだけはずっとそばにいてね」 レナ様は握っていた私の服を離して、そっと微笑んだ。 思えば、レナ様は、旦那様に愛されてない事をちゃんと知っていたのだ。 この日から、レナ様は泣かなくなった。 勉強に必死になった。 私に甘えることも無くなった。 それを成長だと捉えて嬉しく思っていた自分は、今思えば未熟だったのだろう。

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