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第8話

「レナ様、明日は重要な式ですので、早くお休みください」 「分かってる。……ねぇ、ミシェルはラウール様のこと知ってる?」 「……お会いに?」 ラウール様の名前を出した途端、ミシェルは眉をひそめた。 ミシェルのこんな顔、初めて見た。 「さっき会って……ミシェルに、会いに来てっておっしゃってた」 「そうでしょうね。ただ、あまり会いたい相手ではないので。あれに会っても無視して大丈夫です」 「え……?」 皇族に会って無視するだなんて。 無礼どころの話じゃないと思うんだけど…… 「レナ様、分かりましたね?」 「う、うん」 多分その約束は守れそうにないと思いながら、ミシェルの言葉にうなずいた。 ラウール様は優しそうで良い方に思えたのにミシェルは何故そんな事を言うだろうか。 「それならば、早く寝室へ」 いつもより少し固めの声で促される。 ラウール様のことを口に出してから、ミシェルの顔は強ばっている。 ミシェルとこの屋敷で過ごす、最後の日なのに。 僕の事より、ラウール様のことを気にしてるみたいで。 そんなの当たり前なのに寂しかった。 なんだか、置いてかれたみたいで。 「もうちょっとだけ一緒にいて」 その言葉は結局、空気を震わすことは叶わなかった。

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