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第10話
「レナ様、御夕飯の支度が整いましたので、ダイニングルームへご案内致します」
「ありがとう、ミシェル」
シャルル様の配慮で、ミシェルは僕の秘書という形で収まった。
既にこの屋敷には、執事がいるから。
制服が燕尾服からダークスーツに変わってしまったけれど、ミシェルは変わらず僕のそばにいてくれる。
朝食と昼食は自室でとらせて貰うことになってるから、夕食の時間はシャルル様と顔を合わせられる貴重な機会だ。
それにしても、一日目というのは何をするにしても緊張するもの。
シャルル様とは昨日の結婚式でお会いしたばかりだというのに、しっかり緊張してしまっている。
席についてしばらく、扉がぎぃという音をたてながら開いた。
「シャルル様、」
「レナ。明日からは俺は仕事で遅くなるだろうから、一人で食べていろ。部屋に運ばせても構わない」
え、そうすると…
僕とシャルル様の接点がほとんど無くなってしまう……
「僕がシャルル様と共に食事をいただきたいのです。許していただけませんか…?」
「はぁ……余計な気を使わなくてもいい」
ため息をつくシャルル様に、身体がすくんでしまう。
余計な気なんかじゃなくて……
本当にただ一緒に食べたいだけなのに。
でも、ここでこれ以上わがままを言う勇気なんてなくて、そっと頷いた。
食事の間、僕とシャルル様の間には何一つ会話は無かった。
けれど、誰かと一緒に食べるっていうことに、僕は嬉しさを感じていた。
さっきは冷たいような、突き放すような態度をお取りになったのに。
食べるのが遅い僕をシャルル様はずっと待っていてくださっている。
「そんなに急いで食べなくてもいい」
やっぱり、シャルル様は優しいのだ。
初めて会った時と、同じように。
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